2024.11.01. 久しぶりの時代劇、“十一人の賊軍”を鑑賞。時代劇と言えば日本のお家芸。名作と呼ばれる作品も多く、日本だけにとどまらず外国からも高い評価と人気を誇っている。最新の情報でTVドラマ「SHOGUN]」が、今年度エミー賞で最多25部門にノミネートされ、内18部門を受賞したことは大きく報道され話題になったばかり。エミー賞と言えばTV界のアカデミー賞と位置付けられる伝統ある賞。プロデュースと主演を務めたのが真田広之でTVという枠を超えた拘りの演出と脚本で、ハリウッドの目の肥えた業界人たちをあっと言わせた作品として注目を集めています。どうやら映画館での上映も決まったようで、ますます目が離せません。昭和の時代から延々と引き継がれてきた時代劇。チャンバラは日本人の宝ともいうべき伝統芸術。黒澤明監督の多くの作品を筆頭に、あげればキリがないほど名作が揃っています。一時期時代の流れに翻弄され、低迷期がありとんと見れなくなった時期もある。今再び復活の兆しが強くなり、俄かに活気付いている今日この頃。個人的にはチャンバラ大好きな私はこの時を「待ってました~~って」感じでめちゃくちゃ嬉しい気持ちでいっぱい。最近では草彅剛主演の“碁盤切り”がとても素晴らしく強く印象に残りました。戦国時代の合戦を描くスペクタルもいいですが、下級武士の生活を取り上げ武士道精神をテーマにした地味な作品もたまらないものが多い。個人的には藤沢周平の時代ものが大好きで、映画化されたものはほとんど観ています。振り返ると失敗作はまずなく、心に残る名作ばかり。一日中時代劇の梯子をしても、絶対に飽きません。 さて、本題に戻り“十一人の賊軍”の感想です。今作は日本近代史における最大の内乱、戊辰戦争を背景にした旧幕府軍と新政府軍との戦いに巻き込まれた、新潟の新発田藩が起こした歴史的な裏切りで藩の存続を守った物語。史実に基づいた表現なのかはわからないが、リアルな設定になっていて興味は尽きない。エンタメ性を重視して創られてはいるが、事実もしっかりと踏まえての映像化には心が揺さぶられる。やっぱ時代劇は日本映画の誇りと言って良いと確信が持てる作品です。派手な演出が目白押しですが、きちっと1本筋の通ったコンセプトが見て取れ、十分観客を満足させる出来栄えではないでしょうか? 最近派手なアクションものが多く、そのほとんどがCGwo駆使した映像作成になっている。それなりに楽しませてはくれるものの、何かちょっと物足りなさが残ることも多い。そこには例えば殺陣を演じるアクター(スタント)がいたり、ガンプレイやアクションに関しても専門のプレーヤーがリアルなシーンを実際に演じることで観客の心を掴む訳です。生身の人間がアナログな動きを駆使してこそ、本物に近いリアリティが生まれる。これは無くしてはならないというか、無くしては成立のしない分野なのです。最近もアクション映画をたくさん観ているのですが、カッコ良くて迫力のある演出にはなっているのだが、演者によって噛み合わないときがある。これは間違いなく拘りの追求にあるようだ。私は武道を長くやっているので、その辺りが異常に気になりいつも目を凝らして観てしまう。嫌なタイプの映画マニアかも知れない。ガンアクションに比べ刀を使った殺陣は、まさにごまかしの効かない世界。少しでも間違えば大きな怪我を生み出す、際どい表現世界である。だからこそ練りに練った稽古と立ち回りの所作が、作品の出来栄えにそのまま出てしまう。なんか熱く語ってしまいましたが、要は刀を駆使したチャンバラ(殺陣)の方が緊張感がありピストルよりも怖さが伝わるということ。時代劇の魅力はこれに尽きると思っています。 今作のエンタメ的布陣は、主人公たちが皆罪人で命懸けの戦いをするというところが物語の肝になっている。フィクションとはある程度理解した上で、もし本当ふだったらこんな戦い方をするのかなぁ~~~っと思わせるインパクトのある脚本と演出でした。死に物狂いの戦いは共感がもて、旧幕府軍にせよ、新政府軍にせよなんだか全て悪者に見えてきて不思議な感覚を覚えました。特にお家存続(藩の存続)をひたすら工作し非常な手段を使う新発田藩家老(溝口内匠・阿部サダヲ)の悪役ぶりは見事で憎たらしいの一言。何が善で何が悪なのかはどうでも良く、結局非条理の世界は延々と繋がっている世の中だと思い知らされる映画でした。「勝てば官軍負ければ賊軍」という言葉が示す通り、時代とはそんなものなのでしょう。私はそうは思いませんが・・・。 いろん犯罪者が個性あふれる俳優陣たちによって、演じられています。どの人物もキラッと光る、らしさがあり皆魅力的でした。これはある種日本版のスーサイド・スクワッドです。違うのはファンタジー要素がないという事。ラストは壮絶でしすが、男気を残す名シーンと言えるものになっていました。 P.S. 今作でダブル主演をした、侍殺しの罪人・政を演じた山田孝之さんと、罪人たちを束ねた決死隊の隊長・鷲尾兵士郎を演じた仲野太賀さん、二人の渾身の演技はしっかりと届いた映画です。山田さんの汚れ役にしても、仲野さんの無骨さもとても魅力に溢れ、人間味が溢れていました。 先日「徹子の部屋」に太賀さんが出演していて、お父さんが中野英雄さんだと知りました。ビックリしました。1992年に大ヒットしたドラマ「愛という名のもとに」で、チョロを演じブレイクした俳優さんです。大好きだったTVで毎週泣かされてました。浜省の「悲しみは雪のように」が蘇ってきます。 #
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| 2024-11-08 00:00
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銭湯探訪73・さくら湯(墨田区業平4) 2024.10.31. 墨田区はお隣の区ですが、結構広い。自転車で行くには少し限界があり今日行った“さくら湯”さんあたりが限界かも???今日はお昼から足繁く通う菊川のミニシアターStrangerで映画を観て、そのままチャリを漕いでスカイツリー側の“さくら湯”にやって来た。映画館から自転車で15分くらかかったが、すんなりとも来て基地にはたどり着いた。下町情緒たっぷりの路地裏商店街に建つ“さくら湯”さん。今回で墨田区に残る銭湯は9軒目の訪問である。残りはあと9軒。だがこれからはちょっと大変で自転車ではやや遠く、されとて交通の弁が必ずしも良い場所ばかりでもない。じっくり策を練って、ゆっくり回って行こうと考えている。この中途半端な距離というのが、結構迷うところで一層のこと長距離の電車旅の方が行き気をそそる。この辺りが銭湯巡りの難しさかも知れない。 さて、尋ねた“さくら湯”さん。目の前にどんとスカイツリーが、お風呂屋を見下ろすように建っている。入る時は全く気づかず、帰りに玄関の暖簾をくぐり夕暮れの空を見上げると目の前にドンと現れた。今日も青い光を放ち美しく東京を見渡していた。さて、銭湯の話をしましょう。いつも通りフロントで料金を払う訳だが、ここは最近主流の自販機。サウナもあるので、もちろん2つ合わせて800円。江東区ならシニア割引なのだが、隣町の銭湯ですのでわたしは一見サン。いろんなところ巡り歩いて来たので、ほぼほぼ緊張感もなく足を踏み入れる。もちろん初めていく所ではマナーを守り静かにお湯を堪能する極めて優良な銭湯マニアと自負している。フロントにいたのはうら若い女の子。予想通りで無愛想でした。まあ、この辺はしょうがないとあまり気にせず脱衣所へと・・・。この銭湯もビルの中にあるスタイルでやや天井は低い。昔ながらの破風造りの建物を維持している銭湯はどんどん減り、残念なことだがマンションの中に吸い込まれているケースが普通になりつつある。時代の波は街の姿をどんどんと変えていくが、銭湯はどんな形でも残ってほしいと思う文化である。 話を戻してさくら湯のことを。脱衣所はやや広めで、大きな柱時計が洗い場にむかて柱にかかっていた。振り子は動いていないのに、時間は正確に時を刻んでいる。見せかけの振り子なのだろうか?そう言えば子供の頃通っていた銭湯にも、大きな古時計がかかっていたのを思い出した。浴室はそう広くなく全体の半分ほどが湯船になっていた。湯舟最優先の造りは♨️マニアにはたまらない。お湯の種類も薬風呂、ショルダー風呂、シルク風呂、高温深風呂・セラミック風呂、たくさんの種類があり時間の許す限り楽しめる。もちろんサウナと水風呂は売りのひとつ。95°Cの赤外線サウナにはアロマ入りのヤカンが置かれ、心地よい薫が一層リラックス気分を誘う。休憩所前の待合室には中島盛夫さんの富士山のペンキ絵も置かれ、気分は最高。ちょっと話は逸れるが、浴場に入ると珍しく男湯にも関わらず大きな声で歓談する客が多かった。地元の人たちだとわかる内容の話をしているのだが、四人ほどのおじさんが背中に見事な彫り物をしていた。こんなに一堂に会した彫り物を見たのは初めて。今流行りのタトゥーと違って、ある意味日本の伝統を感じます。変なこと言いますが、見事な技術であると美術的に見ても感じています。不思議な光景でしたが、これもまた銭湯の一場面でした。 風呂屋を出たら、目の前にスカイツリーが青い光を放ちさよならと手を振っているように見えました。 #
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| 2024-11-03 00:00
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2024.10.31. 10月最後の木曜日。1年も後2ヶ月となりました。何度も言っているのですが、1年の速さが身にしみる年齢になりました。結構焦っています。残りの人生をいかに有意義に生きるかが、今のわたしの目標。毎日あたふたと動き、じっとしていない落ち着きのない子どものような生活を送っています。 趣味を超えてライフワークになっているのが映画鑑賞。 今日もやって来ました。今日の作品はNHK連ドラ「虎と翼」山田よね役で、見事な存在感を出していた土居志央梨さんの主演する“二人ノ世界”を観に来ました。2020年に公開された作品ですが、行きつけの地元ミニシアターでやっているのをみつけやって来ました。彼女がNHKに出る前の作品ですが、鑑賞して感じたのが確かな演技力とその振り幅の広さ。今後日本の映像界を引っ張っていく人材になる人と確信ました。 先日投稿した作品、“ぼくが生きてる、ふたつの世界”に通じる、身体的マイノリティをテーマにしたのが作品が今作。この手の作品は苦手という人も多いかも知れない、重たいテーマ。私的な意見ですが、こういう作品こそ見なくてはいけないものと感じています。身体に障害を抱える人たちのこころ持ちはどんなに頑張っても、100%と理解する事などできないのはわかっています。でもこう言う作品に触れる事によって、自分たちがいかに恵まれた生活を送っているかを確かめるのには余りある作品ではないでしょうか? さて、感想です。とてもリアルな脚本と演出で、胸が苦しくなります。重度の障害を抱えた主人公二人の、言葉では簡単に表現できないほどの、健常者との壁の高さを思い知らされます。そしてわたしたちに何ができるのだろうか?と考えさせられます。 物語は交通事故で首から下の自由を失った男性(俊作)と、そんな彼の元に介護ヘルパーとしてやって来た盲目の女性(華恵)が紡ぎ出すお話。原作は第10回日本シナリオ大賞佳作受賞作。プロデューサーは林海象氏だが、監督をした藤本敬太氏をはじめ制作スタッフは京都芸術学部映画学科の卒業生たちが担っています。主演の土居さんは同じ京都出身で京都造形芸術大学出身の俳優さん。もう一人の主演は国際的にも数多くの話題作に出てきた、ベテラン永瀬正敏さんが難しい役どころを見事に演じ観客を圧倒します。若い(20代)クリエーターたちの息遣いが伝わる作品は、心に刺さる珠玉の作品に仕上がり胸を打つ。二人の演技が全てと言っても過言ではない素晴らしい演技ですが、映像表現の細かい演出がスタッフのエネルギーとして表現されている事は間違いありません。新しい業界の波を感じることができる。 わたしはこのようなテーマの作品を数多く観て来ましたが、いつも感じるのはもっと障害者と健常者の壁をなくすような社会にならないものかと言う疑問。もちろんそんなの無理と言われてしまえば、それまでなのだが・・・。作品の中で華恵が俊作に言い放つ言葉「迷惑かけんとウチらどないして生きい言うんや」「何もできひんだけで、全部諦めなあかんのかな?」と言うセリフは胸に刺さり抜けない。障害を持っている人の苦悩が、波打つように押し寄せ息ができなくなる。わたしの周りにも多くの障害を抱えている人がいる。普通にお付き合いしているが、相手も自分もどこか気を使っているそんな見えない壁があるのかな?とフッと思う瞬間がある。互いに何も気にしない関係がでいることを望んではいるのだが・・・。今作を観て、あらためてこの問題の深さを実感した。わたしたちにできることってなんなんだろうか?とつい考えてしまいます。一生懸命にただ生きているだけなのに、幸せになることを許されない現実がまだまだ大きな壁となって目の前に立ち塞がっています。少しでもその壁を越えられたらと、正直強い思いを待っています。ぜひ、観てほしい再演の映画です。 P.S. ラストシーンはとても美しく、ちょっとだけですが救われました。美化するのは良くありませんが、華恵が言う台詞「俊作さんあったかいなぁ~~」は心に残り、二人だけが通じる瞬間を表現していました。多くの困難を抱え生きてきた二人だからこそ、素直に出て来た言葉が温かかったです。土居志央梨さんが山田よね役とは打って変わり、とても美しい女性を演じていました。山田よね役も素敵でしたが・・・。改めてファンになりました。 #
by eddy-web
| 2024-11-02 00:00
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2024.10.26. MARVELコミックのダークヒーロー“ヴェノム”の最終章と謳われる第3弾が公開される。先行上映ということで、早速劇場に足を運んだ。正直いうとMARVELキャラの中では、あまり好きではないのが本音。個性はかなり弾けた存在だし、見た目もかなりグロくインパクトは強い。観てくれで判断してはいけないのはわかっているが、なかなか私の中には入ってこないキャラ。それでも観てしまうのはMARVELが大好きなのと、映画付きの性。「いやよいやよは好きのうち」なんて言うが明らかにそれとは違う何かが、映画館へとわたしを誘うのである。 さて、感想です。シリーズ通して一番面白い出来栄えだと思います。エディ・ブロック(ジャーナリスト)に寄生した地球外生命体シン・ビオートから生まれたヴェノム。MARVEL史上最もグロテスクな形態をしたキャラクターはどっからみても悪役の顔。それが寄生したエディとの間で、感情が行ったり来たりを繰り返し、丁々発止の会話をしながらバディを組み悪い奴らをやっつけるお話は知らない間に獲りこまれてしまう。今回はシリーズを通して培われた二人(一人+地球外生物)の絆が集約された展開で、ヴェノムの隠された秘密が明らかになる。相変わらずきち汚いセリフのてんこ盛りだが、もはや気にもならなくなりすんなりと脳に伝達されるようになっていた。DCにしてもMARVELにしてもCG(VFXetc)を最大限に活かした作品は、もはや映画制作においてはなくてはならないコンピューター技術。特にこの手の作品はこれに尽きると言う、高難度の技術が要求され出来栄えが決まってしまう。中身よりは技術の勝負と言っていい映像の質が問われる。変な話、内容なんてあまり期待もしないし、ただ映像技術の凄さを味わうのがわたしの鑑賞理由。監督やスタッフの方たちには失礼かと思いますが、あまり記憶に残るような事はありません。ごめんなさいm(_ _)m だからと言って適当に見るなんてこともしないし、しっかりとスクリーンに目をやり、この時の表現はどんな手段を用いて表現しているのだろう?なんて思いながら観ています。 悪人をペロリと食べてしまうヴェノムを初めて観た時は、けっこう「ウエっ!」て感じでしたが、すっかり慣れてしまいました。考えるに他のヒーローものでも、食べたりはしなくてもビランたちと戦い派手に殺していることを追い返せば一緒。どっちもどっちってところです。今回もネタをバラすような野暮な事はしませんが、さっき言ったようにシリーズでは一番面白かったと個人的には感じています。相変わらずの気持ち悪さに+した人をくったようなユーモア溢れるセリフのやり取りは日本人でも十分わかる表現です。 今作でも昔懐かしい楽曲を節目節目に使い、妙に人間っぽい演出をしています。懐かしいチェン(ペギー・ルー)とのダンスシーンはユーモアたっぷりの表現になっていて素敵でした。(笑) これでお別れとは、チョッと寂しい気持ちにもなりますが・・・。だらだらと先延ばしのシリーズ化よりは潔く消えるのもある意味、ヒーローのカッコ良さとわたしは思います。そっちの方が永遠に記憶に残ると感じます。 P.S. ラストで微妙なニュアンスの画像がエンドロール後に流れます。何か企んでいるようです。最近はこんなのばっかで、ドキドキもしないしそれほど期待もしないのでもうこういう締め方はやめましょう!もう古いです!! エディ役をやっているトム・ハーデーはこの手の作品によく出演していて、新しい“マッドマックス”のマックスや“バットマン”の宿敵ベインなどはわたしの好きなキャラです。これからも頑張ってください。 最後にもう一言。エンドロールに流れる制作スタッフの名前の閲覧がすごく多くてビックリです。こんなに沢山の人たちが作品創りに参加している事に、まずは感謝と敬意を申します。「お疲れ様そしてありがとうございます。」また、良い作品を創ってください。 #
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| 2024-10-29 00:00
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2024,10.22. 久しぶりに銀座に出向いた。もちろん買い物という訳ではなく映画鑑賞。年に何回か尋ねる銀座はその昔、勤めていた会社があった場所。その頃とは風景も様変わりし、近代的なビルが立ち並ぶ街になり相変わらずお洒落なひとが闊歩する。たまに来るのだからとは思いつつ、いつも映画だけを観てサッサと帰宅するわたし。マニアックな作品を観たい時は、この土地がご贔屓。 さて今回ご紹介する作品は、“ぼくが生きてる、ふたつの世界”。先日某TV番組で監督の呉美保さんが出ていて、この作品について語っていたのを偶然目にした。監督の作品は残念ながらまだ観たことがない。今作は9年ぶりにメガホンを取りどうしても撮りたかった作品と力強く語っていたのが印象に残った。そこには映画人としての覚悟と同時に母親の強い感情が溢れていて、絶対に観なくてはと感じた。 原作は作家・エッセイストの五十嵐大による自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえない世界を行き来して考えた30のこと(幻冬社刊)。脚本は監督と親交が深い港岳彦氏が担当し、リアルな現実と人と人との繋がりに大切さをコーダの家族を通しきめ細やかに紡いで見せる。以前、アメリカ映画の“Codaコーダあいのうた”を紹介したことがある、その作品はその年に観た全作品の中で一番となったこころに残る映画となり今も大切にしている。その作品は元々フランス映画“エール!”のリメイク版で、こちらも多くの賞に輝いている名作。両方とも素晴らしい作品だが、どちらも実話ではない。だからどうだというのではなく、映画を通して多くの人に知ってもらいたいという「健常者と障害者の壁」をテーマにしている。家族にその両方が存在し、どちらにも人にはわからない複雑な感情が交差し胸が熱くなったことが思い出される。 さて今作、“ぼくが生きてる、ふたつの世界”はまさに実話をもとにしたもの。綺麗事で描かれていない、健常者と障害者の間にある大きな壁が描かれていた。第三者ではなく肉親の中でのコーダの息子の葛藤が生々しく表現され、嘘のないこころの叫びが見事な表現に繋がっています。主演を演じたのは今や若手俳優のトップを直走る吉沢亮さん。多くの役をすでにやっていて、どんな役でも高い評価を得ている。端正な顔立ちで正統派のイケメン俳優さんである。ただ彼の凄いところは、顔で勝負するのでなくしっかりとした信念を持ち演技に望んでいる姿。目力が半端なく、どんな役でも存在感のある力強い芝居をする逸材と感じている。今回も表情が豊かで、時に憎たらしく、身勝手な典型的な今の若者の姿を自在に操りそして、裏側に見え隠れする心の葛藤を見事に創り上げています。周りを取り囲む俳優陣も個性豊かな人を揃え、物語には絶対不可欠な存在を演じ映画に厚みをつけています。今回何と言っても重要な役を担っているのは、実際に障害を抱えた俳優さんが演じた両親の二人。昔は普通の俳優さんがこのような難しい役を演じていたが、最近は実際に障害を持つ方たち(俳優)が、多く出演される時代になりました。前に述べた“コーダ”でも、本当に障害を持つ俳優さんが役を演じて素晴らしい演技をされていた。そういう部分では、社会的弱者に対する考え方も進歩し理解されるようには少しづつなっているようである。両親役をやっていた二人の俳優さんは実績を重ねてきた名優さんだと聞きました。お母さん・明子役の不忍亜希子さんの存在感は言葉では賞賛できなほどの素晴らしさで、「されど母は強し」を体現しています。また、障害をモノともしない大らかさ溢れる父親・陽介役を演じた今井彰人さんも、子どもを信じ続け応援する優しい父の思いを見事に出していました。こんな素晴らしい家族は、世界中のどこを探しても見つからないと思っています。 家族の在り方を問う1本ではないでしょうか?聴こえているのに、聴こえていないふりをする関係がある一方で、聴こえない世界を想像する人がいる。そんなことを思い知らされた作品に打ちのめされたわたしです。 劇中に主人公の大が、母に対して浴びせる言ってはならない言葉「こんな家に生まれてきたくなかったよ!」は、胸が苦しくなるほど辛く悲しい言葉でした。でもそこに嘘偽りがない分、その言葉の重みが大のこころに重くのしかかって人生を歩き始めたことは間違いない事実。これこそが監督が伝えたいテーマではないでしょうか? 私事で恐縮ですが、中学生の頃兄(異母兄弟)との間で言ってしまった言葉があり今でも後悔しています。結局謝ることすらできずに兄は他界し、ズ~~~と抱えたまま生きています。向こうに行ったら、必ず謝るつもりです。世の中で一番優しく尊敬する人だった兄なので・・・。みなさんにはぜひ観ていただきたい1本です。家族の在り方とはを改めて考える良い機会になる作品です。 P.S. みなさんにも多かれ少なかれ言ってはいけない言葉を、言ってしまった経験があるのではないでしょうか?もしそんな瞬間があったなら、出来るだけ早く謝ることです。わたしはそんなことがあまりにも多く思い出され、間違いなく地獄行きと観念し今を生きています。生きる事は本当に難しく大変ですが、周りの人たちに助けられていることを常に感謝し相手を思いやる心を忘れないようにして生きねばと思います。 ※コーダ/CODA( Children of Deaf Adults):聴こえない、または聴こえにくい親をもつ聴者の子ども。 #
by eddy-web
| 2024-10-25 00:00
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