
09.Mar.1
河瀬直美監督作品「娑羅双樹」を鑑賞した。「萌の朱雀」「殯の森」と観てファンになった自分。この作品は2作品の丁度間くらいに発表されたもの。カンヌ国際映画祭にも出品した2003年の映画である。映画予告の「“神隠し”にあったかのように消えた兄・・・。」というフレーズに強くひかれDVDを手に入れた。
この作品を通し、監督の映画にたいするこだわりをわたしは改めて確認した。それは特典映像のなかのドキュメントに納められ、映画創りを志す人にはとても良い、こちらもある意味作品かと・・・。どうやら監督は作り過ぎることを極端に嫌うらしく、あくまでも自然の日常にこそ、大切なものがいっぱいあると確信しているようだ。脚本も全体像をまとめたら、細かいセリフなどはほとんど決めず撮影を進めながら創るらしい。たしかに今までの作品も通常の映画にくらべ、セリフのやりとりなど最小限にし、どことなくぎくしゃくしていたり、おどおどしていたりと辿々しい所が多く見られる。通常映画の流れるような会話になれた人たちには、かなり違和感を感じるに違いない。でもどうだろう、確かに私たちの日常生活は、絵に書いたような会話など存在はしない。そこが監督の作品へのこだわりだとしたら、なるほどと思える。学生時代からドキュメント作品を撮り、それが監督の軸(リアリティ)をつくりだしたのかも知れない。
映画ははじめ、奈良の街中を手持ちカメラで少年2人を追うかたちではじまる。その道はどことなく懐かしく、近くて遠い見覚えのある風景。錯角さえ覚える心象風景、まさに河瀬ワールドのはじまりである。街中の道を時に歩き、走り、そして自転車に乗ってと、何度もくり返し映像に納め使っている。そこには人が暮らし、平凡だか確かに生きていることが描かれているのだ。古典的な「神隠し」という切り口から始まる物語は、家族の絆を描き、生きること生かされていることを伝えてくる。監督自らが場面場面で人物像の感性を役者に伝え、決めごとをいっさいしない手法で物語を頭から順に撮る。嘘のない映画へのこだわりを再び感じたわたし。監督自身が母親役で出演し、出産シーンを演じていた。とてもリアルで、主人公の少年が流した涙はきっと、撮影していることを忘れさせた本物にちがいない。この作品はすでに観た2作品より、淡々と話しが進みやや地味なので、見る人によっては何かものたりなさを残すかも知れません。わたしは言葉より感情を、感覚として伝えるひとつの表現をこの作品で感じることができました。2人の主人公はともに初々しく、その青さがとても新鮮。どうやら少年は新宿あたりを流していたストリートミュージシャンで、監督が見つけ起用したらしい。

2003年作品
監督・脚本:河瀬直美
音楽:UA
キャスト:福永幸平/兵頭祐香/河瀬直美/生瀬勝久/樋口可南子
最後に劇中のセリフで心に残った言葉をひとつ。
「人には忘れていいこと、忘れたらあかんこと、忘れなあかんことがある。」
深い言葉がこころにしみる。
そうそう、UAの音楽も印象的でした。