
09.Feb.6
被害者と加害者のそれぞれの家族を軸に、人権問題にメスをいれた今回の作品。公開日に合わせてTVの特番「誰も守れない」が中継され、まずそれを観た。こちらは被害者家族の立場からの視点で描かれている。映画に繋げてゆく手法は最近多いが、プロローグとしてだけでなく、さまざまな角度で出演者にスポットをあて、多くの人生を浮かび上がらせている。企画は意図的にTVドラマをうまく連動し描いているのだが、逆にある意味映画に繋げるメディアの恐さをも連想したわたしである。
映画は物語そのものより、ネット犯罪や過剰なメディア競争など、こちらもいろいろと考えさせるやや重いテーマに挑んでいる。映画は本来、娯楽のひとつとして繁栄してきたのだが、今回のように鑑賞する側に問題を考えさせるテーマも近年増えている。かなり誇張されている部分もあるが、とても根深い問題を突き付けられ、観終わったあと頭の中で「自分だったら」と自問自答をくり返してしまった。近づく裁判員制度の現実の重さが、ひしひしと感じられる。
主演の佐藤浩市もすごいが、何と言っても志田未来の演技には脱帽である。15歳とは末恐ろしいかぎり。TVや映画で難しい役を多くこなし、将来を嘱望された女優さんである。幼さののこる顔だちの中に、凛とした強さをもった彼女のこれからが楽しみである。映画の中で、涙したシーンはいっぱいある。だが、わたしは一番胸が苦しかったところは、過去にわが子を無差別殺傷事件で失った父親(柳葉敏郎)と佐藤演ずる刑事の会話シーン。父親が押さえていた感情を思わず吐き出すところがたまらなく切ない。どうしようもない憤りをぶつける父親。人間はそんなに簡単ではないと言わんばかりのシーンである。
加害者と被害者、でもこの2つの立場は、いつ自分に起きるか解らないのが現実かも知れない。そのむかし、自分自身に言い聞かせた言葉を思い出した。「ひとりでも生きられるような強いひとになること。でも、ひとりでは生きてゆけない、生きていないということを忘れない。」強く生きる信念と、感謝の心を忘れないう2つのことがら。いろいろな意味で、人は決してひとりではないことを強く感じた映画になった。みなさんは何を感じるでしょうか?
最後にもうひとつ。リベラというイギリスのボーイソプラノユニットが歌う、映画の主題歌「あなたがいるから」という曲がとても効果的に使われ、ゆさぶられる心をそっと包んでくれたことを言っておこう。