
07.Dec.14.
以前に一度書いた、田町の床屋の話しをしよう。田町といっても厳密には芝浦である。海に近いすこし閑静な場所にその店はある。わたしは若者とは違い、美容院より理髪店である。そのお店に通いはじめ、かれこれ14〜5年になろうかと思う。知人から親戚がやっていると紹介され、通いはじめた。お店はもうすぐ60才になろうとする、ご夫婦と娘さんで切り盛りしている。もちろん散髪が目的なのだが、ご夫婦に会うのも実はひとつの楽しみ・・・。旦那さんは若い頃、きっともてたにちがいないロマンスグレーの髪をした伊達男。おかあさんは、やっぱり若い頃はさぞかし可愛い娘にちがいない、ポッチャリの明るい看板娘。いやもう娘とはいえないが・・・?いや失礼。わたしとそんなに変わらない年なのだった。
今日は、このおかあさんの話。実に明るい性格の人である。行くとわずかな時間だが、とても癒される。わざわざ4〜50分かけ通うのは、それだけの意味があるからだ。椅子につくなり、「さぁ、今日はどんな風にしようかな?!」なんて平気で言っちゃう・・・。お客と言うよりは、実験台。気が若く、いつも新しいことをしようとしている。自分はそう言うとこが好きなので、いつもおまかせ。旦那さんは職人気質で、おかあさんは常にチャレンジヤー。なかなかの夫婦バランスである。おかあさんの今日の話題は、ともだち仲間といつも行くカラオケ店での話。おかあさんは自分のことを、ず〜っと物静かなおとなしい性格だと思っていたが、仲間から「あなたもう少し静かにできない!!」って言われたらしい。お酒も入っていることだろうから、よくある話である。それでも自分はそんなことないと、思い続けていた。ある日カラオケ店の主人が帰り際、「はい!これ!!」ってカセットテープを手渡したとのこと。何か解らず家に返って聞いてみると、その日の仲間たちとの会話が入っていた。聞いてみると30分たっても40分たっても、自分の声しか聞こえてこない・・・?結局最後まで自分の声だけが・・・。と言って大きな声でケラケラ笑いだした。そして「自分のことって、ほんと解らないものね〜っ!」とひとこと。そこから急に血液型の話しになり、「わたしAB型なんだけど、A型にすごく近い自分と、B型にすごく近い自分がいるのよね」て言って、また大きな声で笑った。どこまでもおおらかな人。なんかとっても元気が湧いてくる。帰り際、ひとしきり話しをしたあと急に「あっ!ごめんなさい。これからいい韓国ドラマがはじまるの!」とあわてて店の上にある自宅に帰っていった。玄関口でわたしを見送りながら、ご主人は言った。「あれは長生きするよ!」わたしは笑いを噛み締めた。いつまでも元気でいてほしいと、心から思うわたしである。