

2025.6.27.
ちょっと気になっていた作品、“でっちあげ・殺人教師と呼ばれた男”を鑑賞。実際に起きた事件をもとに作られた映画は、福田ますみさん原作のノンフィクションで第六回新潮ドキュメント賞を受賞した作品。実際に起きた冤罪事件は、ある小学校に勤める教師が教え子に体罰を加えたと報じられそのことが社会問題に発展し人生が狂いはじめる話。以前似たような作品で“怪物”という是枝作品があった。あの作品も人間の中にある思い込みの果てに起こる、子ども、親、教師の危うい関係性を浮き彫りにした何とも言えない怖さを感じさせる作品だった。同じようなテーマではあるが、本作は事実を元にし裁判というリアルな表現を加えひとりの教師が一人の人間としての尊厳を失っていく様が描かれる。見終わると索然としない、何とも言えない気分になる。心理的に追い詰められていく主人公・教師薮下(綾野剛)の姿が、見る側に言葉にならない息苦しさを覚えさせる。
冒頭、教師薮下が生徒の母親の家に呼ばれ面談をするシーンから始めり、子どもへのイジメ(体罰)が描かれる。それを見せられると「なんと酷い教師だ!」とまず思わされる。このプロローグの展開がこの物語のまさに柱ということは、ラストまで行くと納得する。人間の中にある「疑うという思い込みの怖さ」がひとりの人間の人生を狂わせるという事実が浮かび上がる。同じスチエーションで真逆の場面が描かれると、いや待てよもしかして・・・???。という疑念が湧いてくる。何が真実なのか?と頭の中が混乱し、物語は徐々に確信に近づいていく。ここで見る側は、初めて思い込みの過ちに気が付く。人間は情報を自身の感覚で捉え、勝手に審判を下していく。ここに今回のテーマが浮かび上がり、いかに真実を見抜くことの難しさを思い知らされる。
裁判は教師側の勝利として、逆転の審判が降るが本当の勝利とはならない現実が横たわり何とも言えないモヤモヤした結末となる。司法のあり方に疑問が残る居心地の悪い作品は、ラストでようやく主人公が元の権利を取り戻すのだが・・・。失った時間は取り戻すことのできない、大きなものとなって横たわる。映画の鑑賞後しばらくの間、モヤモヤした気持ちは晴れず耳に入る情報を鵜呑みにすることの危険な行為を改めて考えさせられるそんな時間となった。
主人公・薮下を演じた綾野剛が素晴らしい演技を披露しています。鬼気迫る表情に揺れ動く心が反映され、見る側に迫ってくる。また、被害者(当初)の母親役を演じた柴崎コウさんもどんどん表情が変わっていき、本当に怖いと思わせるモンスターペアレンツを演じています。能面のような無表情な顔が、母性の域を通り越しモンスターへと変貌する姿に背筋が凍る。この二人のバトルを中心に、真実の危うさが問われる作品は情報に振り回せれている私たちに、大きな警報を投げかけているそんな気がします。
あなたはこの真実をどう受け止めますか?そして真実を見抜く自信はありますか?
P.S. 脇を固めた俳優さんたちも、皆素晴らしい演技でそれぞれの立場を見事に演じとてもイライラさせます。でもここに人間の一番醜い姿が浮かび上がり、自分は大丈夫かと思わせる。第三者という立ち位置が、一番罪が重いような気がする、そんな作品でした。