人気ブログランキング | 話題のタグを見る
よもやまシネマ758 “でっちあげ・殺人教師と呼ばれた男”
よもやまシネマ758 “でっちあげ・殺人教師と呼ばれた男”_e0120614_17404462.jpeg


2025.6.27.

ちょっと気になっていた作品、でっちあげ・殺人教師と呼ばれた男を鑑賞。実際に起きた事件をもとに作られた映画は、福田ますみさん原作のノンフィクションで第六回新潮ドキュメント賞を受賞した作品。実際に起きた冤罪事件は、ある小学校に勤める教師が教え子に体罰を加えたと報じられそのことが社会問題に発展し人生が狂いはじめる話。以前似たような作品で怪物という是枝作品があった。あの作品も人間の中にある思い込みの果てに起こる、子ども、親、教師の危うい関係性を浮き彫りにした何とも言えない怖さを感じさせる作品だった。同じようなテーマではあるが、本作は事実を元にし裁判というリアルな表現を加えひとりの教師が一人の人間としての尊厳を失っていく様が描かれる。見終わると索然としない、何とも言えない気分になる。心理的に追い詰められていく主人公・教師薮下(綾野剛)の姿が、見る側に言葉にならない息苦しさを覚えさせる。

冒頭、教師薮下が生徒の母親の家に呼ばれ面談をするシーンから始めり、子どもへのイジメ(体罰)が描かれる。それを見せられると「なんと酷い教師だ!」とまず思わされる。このプロローグの展開がこの物語のまさに柱ということは、ラストまで行くと納得する。人間の中にある「疑うという思い込みの怖さ」がひとりの人間の人生を狂わせるという事実が浮かび上がる。同じスチエーションで真逆の場面が描かれると、いや待てよもしかして・・・???。という疑念が湧いてくる。何が真実なのか?と頭の中が混乱し、物語は徐々に確信に近づいていく。ここで見る側は、初めて思い込みの過ちに気が付く。人間は情報を自身の感覚で捉え、勝手に審判を下していく。ここに今回のテーマが浮かび上がり、いかに真実を見抜くことの難しさを思い知らされる。

裁判は教師側の勝利として、逆転の審判が降るが本当の勝利とはならない現実が横たわり何とも言えないモヤモヤした結末となる。司法のあり方に疑問が残る居心地の悪い作品は、ラストでようやく主人公が元の権利を取り戻すのだが・・・。失った時間は取り戻すことのできない、大きなものとなって横たわる。映画の鑑賞後しばらくの間、モヤモヤした気持ちは晴れず耳に入る情報を鵜呑みにすることの危険な行為を改めて考えさせられるそんな時間となった。

主人公・薮下を演じた綾野剛が素晴らしい演技を披露しています。鬼気迫る表情に揺れ動く心が反映され、見る側に迫ってくる。また、被害者(当初)の母親役を演じた柴崎コウさんもどんどん表情が変わっていき、本当に怖いと思わせるモンスターペアレンツを演じています。能面のような無表情な顔が、母性の域を通り越しモンスターへと変貌する姿に背筋が凍る。この二人のバトルを中心に、真実の危うさが問われる作品は情報に振り回せれている私たちに、大きな警報を投げかけているそんな気がします。

あなたはこの真実をどう受け止めますか?そして真実を見抜く自信はありますか?

P.S. 脇を固めた俳優さんたちも、皆素晴らしい演技でそれぞれの立場を見事に演じとてもイライラさせます。でもここに人間の一番醜い姿が浮かび上がり、自分は大丈夫かと思わせる。第三者という立ち位置が、一番罪が重いような気がする、そんな作品でした。




by eddy-web | 2025-07-02 17:42 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
<< よもやまシネマ759 “ババン... よもやまシネマ757 “メガロ... >>



エディデザイン室
by eddy
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新の記事
カテゴリ
以前の記事
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 04月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 06月
2007年 05月
フォロー中のブログ
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧


logobr.gif