2024.9.05.

先日鑑賞した“チャイム”の黒沢清監督が制作した、“蛇の道”を観にストレンジャーにやって来た。“チャイム”の衝撃が心に刺さり、感性を刺激され過去の作品を含め色々調べたわたし。知っている作品や観た作品もあり、監督には失礼だが認識を新たにしました。海外の映画祭でも多くの賞を獲得し、国際的にも評価の高い監督さんなのだとますます興味が湧いています。そんな中“チャイム”に引き続いての“蛇の道”を観て、感じたのは他の監督には観られない不条理というか、理屈では割り切れない人間の中にある衝動みたいなものが一つのテーマとしてあるような印象を受けました。

さて、感想です。この作品は監督が、1998年に一度映画化したものを、再構築したリメイク。前作を観ていないのでくらべることは出来ませんが、脚本を自ら手がけ新たな人物設定に舞台をフランス・パリに移し、フランス、日本、ベルギー、ルクセンブルグの合作となっている。基本全編フランス語での表現となり、主演の柴咲コウ以外はほぼフランスの俳優さんが中心の展開となっている。この撮影に入るに至っては、柴咲コウが撮影の半年前からフランス語のレッスンを受けて臨んだと解説で知った。全編を通し流暢なフランス語を操る柴崎さん位は驚かされた。正直彼女にこんな才能があったのかと、勝手に思っていたがやはり挑む上での猛特訓があったのかと俳優という仕事の凄みを感じました。

物語は、娘を殺された父親の復讐に手を貸す日本人の心療内科医の新島小夜子（柴咲コウ）と言う女医のクライム・サスペンス復讐劇。この作品を観た時に感じたのはまず、情緒不安定な感覚を観る側に感じさせ何が真実で何が嘘なのかと疑心暗鬼の状態を創り上げること。これは先日観た“チャイム”と同じ感覚なのだが・・・。この作品は主人公に心療内科医という職業を持ってくることにより、さらに深く人間の中に渦巻く怨念のような感情を巧にコントロールしてさらに迷路に誘い込む形に操られてしまう怖さを描いている。柴崎コウさんは以前からその演技力には惹かれるものがあり、TVや映画など数多くの作品を観て来ました。どんな役もそのキャラに合わせ明暗を見事に使い分ける女優さんのひとりと認識している。映画デビューは深作監督の“バトルロワイヤル”で、この作品に出たキャストの皆さんは皆日本を代表する俳優さんになっています。特にインパクトを感じたのは“黄泉がえり”という作品で、彼女が演じた恋人を思いながら復活する謎のアーティストを演じた映画。ファンタジー色の強い作品でしたが、とても印象に残っています。その時話題になったのが顔を見せず歌を歌う姿だけを浮かび上がらせる謎ぽいっ演出でそのアーティストを演じた柴崎さん。その時に使われた主題歌を彼女が歌っているが、これも明かされることなくベストテンに上がる大ヒット。その正体に誰もが好奇心を揺さぶられ、正体が明かされた時に、皆アッと思ったことが記憶に残っています。柴崎コウの歌唱力と感性に訴えてくる表現に驚かされました。話が飛びましたが、今作“蛇の道”は彼女の真骨頂とも言える、そんな作品に仕上がっています。クールで無表情の中、強い意思を感じさせる冷淡な行動力。そして冷たい眼差しは、心を読めない怖さをひたすら感じさせ最後まで予測を阻む。劇中、拉致された犯人が「蛇のような眼」と彼女のことをいう。これがこの映画の全てを物語っていると、ラストにたどり着いた時感じたわたし。人の心を巧にコントロールする謎の心療内科医の難しい役柄でしたが、見事に演じた柴咲コウの凄みを感じる作品でした。最後まで結末が見えてこないストーリーは、黒沢清監督のそれこそ深く読めないクリエーティブ能力を感じる作品です。なんでこんな凄い人のことを、いっぱい映画を見ている割には知らなかった事が恥ずかしい。次回作“クラウド”が公開を控えていますが、すでに心は飛んでいて1日も早い公開を待っています。

P.S.　映画が好きな私ですが、音楽も大好き。コレクションしている楽曲をセレクトして録音し、iPodで今も聴いています。iPodを使っている人、まだいますよ・・・。セレクトの楽曲の一つが先ほど言った、柴咲コウさんが謎の歌姫役RUIとして歌った劇中歌、黄泉がえり”のテーマ「月のしずく」。とても美しい作品です。彼女の透明感のある美しい歌声にいつも癒されています。余談ですがもう一曲大好きな映画の劇中歌があります。大好きな作品“ふたり”の主人公を演じた中嶋朋子が歌った「くさの想い／千津子のテーマ」。映画の印象をより強くした楽曲で、これもまた私の心を癒してくれる素晴らしい作品です。機会があったら探して聴いてください。