

2024.8.09.
毎日、猛暑日の数値が更新される異常な暑さ。外に出かけるのを、ちょっと躊躇する辛い日々。そんな中頑張って映画鑑賞に出かけてきました。最近足繁く通っているミニ・シアター「Stranger」は、映画好きにはたまらない空間。今日は気になっていた作品“Chime”(チャイム)を見にやって来た。劇場近くにチャリを止め、劇場受けに入るや否や驚く混雑。どうやら気になっていたのは、私だけではなさそう・・・。ほぼ満席状態の作品に、期待が膨らむ。この作品の監督は黒沢清氏は、今世界で注目を浴びている人。私は初めての鑑賞になるが、とても楽しみな作品である。
感想です。上映時間45分という短い作品ですが、かなりヤバイ(言い方に問題はありますが)作品です。魔法にでもかかったような不思議な感覚を覚える。日常の中のいっときを映し出した作品なのだが、夢なのか現実なのかと監督が放つ蜘蛛の糸に気が付けば絡め取られていた。妙にリアルな分だけ、怖さを通り越し静観している自分がいる。「こんなことってあるわけない」と思いつつ、心のどこがで「いやあるかも知れない」と囁く声が聞こえる。現代社会に生きるひとたちが抱えている目には見えないストレスが、爆発する瞬間が描かれている。そのストレスがどこで生まれたものなのかは描かれていない。でも理屈ではない心を縛り続けている何かが、そこにはある。見終わると主人公と自身を重ね合わせている私。絶対ないとは言い切れない恐怖に、細胞が凝縮する。主人公松岡は一見、物静かな料理教室の講師。その教室に通う生徒の田代が、他の生徒とは異なる不可解な言動や行動を見せるところから、物語は始まる。田代の目はちょっと危ない感じの「いっちゃてる」雰囲気を発しているのだが、それをクールに受け流す講師の松岡も何故か同じ匂いがする。会話のやりとりに人の温かみが感じられないのは、私の偏見なのでしょうか?物語はジェットコースターに乗ったような、早いテンポで想像を超える方向へと向かっていく。誰も理解できない恐ろしい展開に、思わず息を殺して見入ってしまう。
この作品は一体何を訴えているのだろうか?現代社会に潜む闇を浮かび上がらせているのか、それとももっと別なメッセージがあるのかと考えさせられる。カメラワークは内容の緊張感を見事に拾い上げていて、実に見事としか言いようがない。引きで抑える遠景は妙に静かで美しく、逆に寄りは人物の中に潜む心の動きを緻密に浮かび上がらせリアルである。言葉では言い表せない、恐怖と虚脱感に襲われる。タイトルの「チャイム」は生徒・田代が講師の松岡に「頭の中でチャイムの音がする」というシーンに使われる。わたしにチャイムの音ではなく、不快なノイズ音に聞き取れたが、そこは問題ではなく全編を通じこの不快な音が実に見事に効果をあげ恐怖を煽るのである。急に無音状態になったり、頭の中を掻き回されるような騒音になったりとこれだけでも十分ストレスがかかる。最近見た映画の数々は、今回同様、音(効果音)を上手に使い、良くも悪くもインパクトのある作品を創り上げている。そう考えると映画の醍醐味は至る所に転がっていて、これこそ総合芸術と言われる証なのかも知れない。
知っている俳優さんは、刑事役の渡辺いっけいさんと、松岡の妻を演じた田畑智子さんのみ。二人とも脇をしっかり固めた演技をしていてさすがでしたが、松岡を演じた吉岡睦雄さんの無表情で淡々とした演技は、そばにいたらちょっと怖いかも?この作品は私には、「コミュニケーション」の大切さを感じさせるそんな作品でした。言葉のキャッチボールの大切さが身にしみて感じとれる作品です。
ラストはモヤっとしていますが、これから何が起きるのだろうと想像してしまう。これが監督の意図なのか「リアルと妄想」の迷宮に引きずり込まれてしまいます。
P.S. 暑さを乗り切るにはちょっと刺激の強い作品ですが、極炭酸水を一気にがぶ飲みもいいかも知れません。どうぞ劇場へお出かけください。※本作はメディア配信のために創られた限定のものと聞いています。最近SNSの勢いが止まりませんネ。
●画像はチラシを使いました。いい写真ですネ。この作品もプログラムの制作をしていないとことでした。