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よもやまシネマ699 “悪は存在しない“
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2024.6.25

ドライブ・マイ・カーから3年を経て、姿を現した作品は今まで観たどの作品とも違う感覚を味合わせてくれたそんな映画でした。同映画でカンヌ映画祭をはじめ多くの映画祭で高い評価と賞を受賞したのは、記憶に新しい。その監督(濱口竜介)とその時音楽を担当した石橋英子さんが、再びタッグを組み創造した作品が今作悪は存在しないである。プログラムを読むとこの作品がう編まれるまでの詳細が書かれていて、実に興味深い内容が書かれていた。この企画は石橋英子さんのライブパフォーマス用の映像を撮って欲しいというところから始まったと・・・。そのタイトルは「GIFT」。悪は存在しないの映画の中で冒頭から、とても綺麗な空松林の中をローアングルで下から見上げた木々の映像が流れる。一体これから何が起こるのだろうと、妙な胸騒ぎを覚えるシーンが延々と静かにスクリーン上をゆっくりと動く。何か絵値の知れないものに、引っ張られるような感覚を覚える。そう言えばこの前観たザ・ウォッチャーズもテイスタは違えど森の美しさとその反面、覆い被さるような圧迫感を感じたことを思い出した。表現こそ違えど、大自然の中では人間なんてちっぽけな存在なんだと感じる瞬間でした。悪は存在しないの冒頭シーンは音楽と不思議なアンサンブルを生み出し、まるで墨絵の中を彷徨いながら歩いている感覚を覚える。そしてもう一つ重要な役割を担っているのが、音響効果の巧な使い方。薪を割る音、雪を踏み締め歩く音、そして荒い息遣い。そのどれもが映像の美しさと重なり強い印象を残しています。ラストにも同じ映像が使われ、よりインパクトのある画面になり忘れることのできないシーンへとなっている。

さて映画ですが、2つの目的の違う作品だ同時に創られる、新しい試みだったようで、試行錯誤の連続だったとも語られています。行き当たりばったりの旅をしている感覚の作品創りはそのまま、映像やキャストの演技に表現され何とも言えない緊張感溢れる物語を生み出しています。ドキュメンタリーといってもおかしくないような演出が妙にリアルな感覚を創り上げ、そこにいるような感覚さえ覚えてしまう。自然体であまり嘘くさくない、言い方を変えれば本物の素人さんたちがそこにいて、真剣に一日一日を手探りで生きているそんな姿を浮かび上がらせている。正直このような作品は、あまり記憶にない。ドライブ・マイ・カーの時も主人公の内に潜む揺れ動く心のアヤが、繊細に描かれていたが、今作はドラマティックではないが真に迫ったリアルな世界がそこにあった。

今まで味わったことのない作品と出会い。ある意味社会問題を背景にしてはいるのだが、そんな簡単な話ではなく人の本質に切り込んだテーマではないだろうか?生意気な言い方をすると、私たちみんなが抱える、どこにもぶつけようのない憤りみたいなものを映像を通して表現した作品です。

この終わり方をどう受け止めたら良いなおだろう?受け止めれば、良いのだろう??あまりにも静かで衝撃的なラストに、言葉を失ってしまう・・・。

この映画には、嘘偽りのない本当のコミュニティの姿が映し出されている。都会で生きる自分のことしか考えない、考えられない人がなんか悲しくなる。そんなことを思い知らされる作品でした。これは是非、観てもらいた作品のひとつです。説明が下手で伝わらないかも知れませんが、自分の目で確かめて欲しい、ある意味私たちを映し出した映画かも知れません。ちょっと今回の感想は長くなりました、お許しを・・・。

P.S. 主人公巧(自称・便利屋)と呼ばれる町一番の物知りで信頼が深い男を演じている大美賀均さんの、本当にいそうな一見偏屈な人物像は見事です。まるで仙人のような考えと生き方をしている。とっつき辛いが、誰よりも深く周りのことに気を配っているそんな人。そしてその父に寄り添うように生きている娘の花(西川玲)。とても好奇心が強く、そして誰よりも自然を愛する父親を信頼している。役を超えた距離感は、2人の関係を言葉では表せない絆を創り上げ暖かい。脇を固めたキャストの人たちもそれぞれに存在感を出し、しっかりと物語に重みをつけています。中でも都会から「町を豊かにするための計画」と称しグランピング場建設の提案でやってくる男女が、とても重要な役をしていて印象に残る。はじめはなんて身勝手な嫌な奴と思わせる説明会での登場だが最後は・・・。ドライブ・マイ・カーと同様に車の中での会話シーンが中盤に入っているが、本音で語る会話には思わず「クスッ」と笑える。開発計画を持ち込んだ会社に社員は、高橋(男)と薫(女)。この会社は元は芸能事務所という設定でとても胡散臭い。薫は元は看護師で心を病んでの転職と高橋に話、そのあと「この業界はどうよ!」と尋ねられ、「思ったとおりクズばかりでした」と答えるところが痛快でした。でもそのあと「気張ってなくて楽です」みたいなこと反すシーンはとても心に響きます。

さて映画のタイトル悪は存在しないは、見ればなんとなく理解できるのですが・・・。それでもラストの衝撃を受け止めるのはかなり大変です。



by eddy-web | 2024-06-28 00:00 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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