2024.6.11.
気になっていた作品を見て来ました。その作品は山田太一さんの原作、山本周五郎賞を受賞した「異人たちとの夏」を題材にした“異人たち”という映画。この原作は日本でも過去に大好きな大林監督の手によって映画化されています。大林監督らしい題材で、とても良い作品でした。調べると山田太一氏の作品の中では、異例の設定と内容で人の死をテーマにした唯一のものらしい。この作品は娘さんによると、山田氏の自叙伝的なものだと言っておられます。脚本家として一時代を作り上げた氏の作品を振り返ると、確かにこのようなテーマ(過去を振り返る)の作品はあまり知らない。いつも過去でも未来でもない、現在を映し出す作品が多かったのは確かなこと。大林監督の作品を見た時は大林ワールドに飲み込まれ、山田太一氏の原作だとは、気づきませんでした。勉強不足な私です。
さて、イギリスで創られた作品、“異人たち”とは・・・。正直言いますが、初めの導入部から何となく重たい感覚が身を包み、少しホラー的な感覚を覚えました。また、主人公の人物設定がLGBTQになっていて、ある意味イギリスぽっいなぁ~~と感じました。この人権問題は今や世界中に広がっている大きな問題ですが、やっぱりイギリスが頭に浮かぶくらいイメージは浸透しています。芸術家などアートや音楽などのクリエーターが多い文化発祥の地という条件もあると感じます。今作の主人公も小説家という設定になっているのだが、これは山田太一氏の私小説と言われる原作を忠実に再現しているようです。
日本の原作が海外のクリエーターから注目をあび、作品化に至ることを誇りに思います。最近このようなケースが増え、ようやく日本の文化や芸術が世界と肩を並べるところまで来たのだと、感じています。
今作品は社会的背景が重たくのしかかっているので、重たくはなっていますがこんな角度で表現する形あるのだと個人的には感動しまいた。ラスト近くでは、ようやく主人公たちの気持ちに少し近づけたようで静かな涙を流してしまいました。愛にも色々な形があるのは承知していますが、自分の中にない物ですので本当に分かっているのかと問われると自信はありません。でも今回の作品でそのことで悩む主人公の葛藤が、とても苦しく重たいものなのだという事が伝わり本の少しLGBTQ近づけたかも知れません。
考えるに近年見た作品の中で、印象に残っている作品を拾い上げると“ホエール”や少し前の“チョコレート・ドーナツ”、などこのテーマの作品が多いことに気づきました。草彅剛くんの“ミッドナイトスワン”もそうでした。人が人として堂々と生きていける社会に早くなることを願うばかりです。
主人公の二人を演じた俳優さんは見事な演技で、とても繊細かつ壊れやすいガラスのような表現力は素晴らしかったです。互いを思いやりながらも、不安定で不確かな心の揺らぎを言葉や表情でしっかりと伝える2人は甲乙付け難い演技になっています。作品の中で使われる挿入音楽がまた、心を揺さぶる演出となり感性を刺激すること間違いなし。サントラがあれば、即購入です。幻惑的な映像表現も見所の一つですが、調べるとデジタルではなく35mmフィルムでの撮影との事。物語の内容にピタッとハマったクオリティの高い映像表現になっている素晴らしい作品です。ぜひ、劇場に足を運び鑑賞してください。
良い作品に出会うと、心が豊かになり幸せな気分になります。