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よもやまシネマ663 “ゴースト・トロピック”
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2024.4.10.

先週観た“Here“に続き、バス・ドヴォス監督の前の作品、“Ghost Tropic"を鑑賞。“Here“の静かな人間模様と美しい映像美に魅了され、もっと深く監督の感性に触れたく再び劇場にやって来た。2作を連続で見られるのが、この機会だけと知ったので絶対見なくてはと時間を作りました。

この2作はまるで、繋がった物語のように感じがします。俳優さんたちが両方に出ている事や内容も含め、なんとなくひとつの物語に思えた私。もちろん内容は完全に別物として創られていますが、舞台ブリュッセル(ベルギー)の社会背景と多国籍の人々の繋がりは共通のテーマ。制作順の前後逆に観ることにはなりましたが、祖国を離れ異国で働く移民の人々のささやかな幸せを大切にしている姿が何とも言えず心に沁みました。2つ作品を鑑賞しバス・ドヴォス監督が大好きになりました。

さて、“Ghost Tropic"の感想です。“Here“以上に地味な物語ですが、見終わると主人公がとても愛おしく思えてくる。この作品の主人公は清掃婦のハディージャ(サーディア・ベンタイブ)。仕事帰りの地下鉄でつい居眠りをしてしまい気がつくと終着駅に着き、戻る電車がない状況からはじまる。学生の頃、私も経験したことがあるのだが、よくある日常の一コマ。厳しい寒さの真夜中にひとり終着駅に降り立つ中高年の女性ハディージャ。我が家を目指し黙々と歩く彼女に、さまざまな出来事が夜明け前の数時間の中で起こる。見知らぬ人との一期一会の繋がりは、特別なものではないのだが、じんわりと優しさで包まれている。裕福ではないが決して不幸とも言えない自然体の生活に、何とも言えない哀愁を感じてしまう。真夜中の一人旅で彼女はさまざまな人との出会いと別れ。ホームレス、警備員、コンビニの店員、病院の看護師などなど・・・。どの人たちも彼女と同じく、社会の底辺で暮らしている人々。私はブリュッセルという街のことをよく知らない。“Here“の感想でこのまちがヨーロッパの縮図と敬称されていることに触れた。きっとさまざまな国から移り住んできたこの街には裕福な人たちもいるはずなのだが、今作にはいっさい登場しない。なぜなのか?と考えると比較して社会問題を描くのではないコンセプトのようだ。まっすぐに、貧しくても美しく生きている人がこの街には存在していることをひたすら描きたかったのだろう。幸せは人それぞれに感じるもので、比べるものではないことに気付かされる優しい作品です。エピローグで彼女が暮らす小さな部屋が映し出され、最後もまた同じ部屋に日がさしてくる様子でエンドする。長回しで固定されたカメラは光と影を浮かび上がらせ、外から街の騒音(車の走る音、子供の声、鳥の囀りなど)が鳴り響き、街が生きている。そして人々が暮らしていることを暗示させる。音響の使い方は五感を刺激し、想像力に拍車が掛かる。演出の見事さにうっとりとし、時間の流れを全身で感じることができる。「名もなく、貧しく、美しく」を地でいくハディージャは、私にはマリア様に見えてきた。芯の強さと高い誇り、そして慈しみの心、お金では買えない一番大切なものが彼女には詰まっていました。物語の中盤でコンビニの女性店員との会話で、「あなた美人ね」と言われる一コマがある。きっと彼女に内面から溢れ出るエナジーへの賞賛の言葉ではないでしょうか?二度と巡り合うこともないかもしれない人たち、そして一夜の彷徨は間違いなく観るものに最高な至福の時を味合せてくれる。少なくともわたしはその一人になりました。いい映画です。ぜひご覧ください。おすすめです。肩の力が抜け、心が穏やかになるそんな作品でした。

P.S. ハディージャが街を彷徨する中、ず~~~っと流れている、アコースティックギターの音色がたまりません。彼女にそっと寄り添っているようでたまりません。また俳優さんたちの台詞を極力シンプルにした演出だが、言葉の重みと演技力の高さでワンシーン、ワンシーンがとても印象的です。冒頭、彼女の職場が映し出され仕事後の談笑シーンが写し出されます。何かツボにハマったかのように、演技を超え腹を抱え笑っている彼女と仲間達。くったくなく笑う姿に、思わず観ている私も意味もなく笑いが込み上げてきました。忘れられないシーンですが、思うにこれが彼女の芯の強さと心の広さを表現しているのではないでしょうか?エンタメとは程遠い作品ですが、こういう作品こそ映画の役割を担っているような気がします。ハディージャを演じたサーディア・ベンタイブはベルギーでは超有名な女優さんだそうです。然もありなん・・・。見れば納得です。



by eddy-web | 2024-04-13 00:00 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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