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よもやまシネマ679 “月”
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2024.3.18.

静かに話題になっている作品、“月”を観てきました。映画のテーマは人間の中にある「虚と実」「表と裏」「善と悪」という、誰もが少なからず持っている感情の奥にある歪なものを手探りで掬い描いている。映画鑑賞した後、すぐに感想を書く気になれなかった。それは内容はもとより、この作品を作り上げたスタッフや関係者の方たちの覚悟が強く感じられ、軽はずみにコメントをかけることなど出来ない、そう思ったからである。ジャンルでくくると、社会テーマではある作品なのだが、そんな軽い言い方などできない作品だと感じました。冒頭、暗闇の中をひとり歩く主人公・洋子(宮沢りえ)の不安なh表情をした姿が映し出される。足元が映し出され、瓦礫の中を歩く足音だけが響く。辿り着くと目の前に現れたのは、目を疑いたくなるほどの光景。いったい何が起きたのか?そしてこれから何が起こるのだろうと心が揺らぐ・・・。この瞬間から私は完全に画面の中に吸い込まれていた。

物語は人間が抱える「業」の深さに切り込んだ問題定義を創り上げている。観終わるとすぐに、「人間てって、いったい何者なのだろう?」と自身に問いかけてしまう。人は無意識に「嘘」を都合のいい形で、使っている。これはどんな人間も一緒で、そこに特別な感情もなく当たり前のように使っている。これが果たして良いことなのか?悪いことなのか?を考えせられる映画ではないでしょうか?解っているのに、変えることのできないもどかしさを突きつけられる。ラストに少しだけ希望の光が見えた気もするが、しばらくの間モヤモヤした時間が続いてしまった。大きな課題を残す、そんな作品ではないでしょうか?

映画という表現での挑戦的アプローチですが、映画という枠を飛び越え自分の生き方を考えさせられます。重たいテーマの映画です。でも、目を瞑らさずしっかりと現実に目を向けないといけないと気付かされる。答えを見つけるのは大変ですが、人として考える時間はとても大切なことだ・・・。

日本の映画がこのような作品を作り上げたことに、驚きを覚えます。スタッフの強い覚悟を感じると、はじめに言いましたが観る側にも覚悟を持って観る姿勢が必要です。答えは見つからないかも知れません。私は残念ですが見つからないで、ず~~っと引きずっています。「清く、正しく、美しく。」なんて、絶対無理な人間ですので・・・。それでも一生懸命に生きることだけは、続けたいと思います。

物語の原作は2016年に社会を震撼させた事件「津久井やまゆり園事件」を題材に書き上げられた小説。相模原市にある知的障害者施設で発生した大量殺傷事件を、2017年に今作と同じ題「月」として発表したもの。ノンフィクションではないもののの、深い洞察力を元に、人間の「業」が持つ不確かさを抉り出しています。この原作を映像化するのには、並々ならぬ覚悟が絶対に必要とされることは読めばわかるテーマ。わたしたちが生きる社会において、最もタブーとされる未知の領域に足を踏み込むという作業は生半可なことでは出来ないことだったに違いありません。監督は“舟を編む”で第37回日本アカデミー賞最優秀作品賞および監督賞をW受賞した、石井裕也監督。近年(’23)“愛にイナズマ”を発表し、若者の指示を仰いでいる気鋭の監督さん。40歳という年齢でこの難しいテーマに挑んだことに、感謝と尊敬の念をいだきます。プロデュースしたのは“新聞記者”、“空白”などを手掛けてきた故・河村光廣氏。常に社会の矛盾に目を枯らし、タイムリーに話題作を提供してきた。その河村氏が最も挑戦したかったと語っていた作品が今作 “月”。オファーを受けた石井監督ものちに「撮らなければいけない作品だと覚悟した」と後に語っています。そして選ばれた俳優陣は今一戦で活躍する精鋭の映画人たち。主人公・洋子を演じた宮沢りえさんをはじめ、加害者となるさとくん役の磯村勇斗、同じ施設で働く陽子役の二階堂ふみ、そして洋子の旦那さま藤堂昌平役のオダギリ・ジョー。皆さん渾身の演技には、何度も息ができないほどの強い感性が迸り共感を覚えました。どれだけ賛辞をしてもしきれないほどの、感動をいただきました。何度も使っている言葉「覚悟」が台詞ひとつひとつに乗っかり、魂が揺さぶられました。

絶対に見てほしい、いや見なくてはいけない作品です。すでに記憶から薄れていっている、事件ですが終わっていないことを改めて見つめる機会ではないでしょうか?

P.S. 映画とは関係のない話ですが、少しだけお話しをします。私の2歳年上の兄は知的障害を持ち、この世の生まれてきました。今も静かに暮らしています。幼い頃、ずいぶん虐められた記憶があります。それでも家族は特にそれを気にすることなく(気にはしていた?)生きてきました。私が15歳のとき母が亡くなり、お通夜の席で一番好きだったおばちゃんが「よっちゃん(兄)のことをこの子がいなかったら、こんなに苦労はなかっただろうに・・・」と呟いたことを、今でも忘れることができません。妹のことを気遣っての言葉だった飲み込めるようになったのは、それから数十年。お袋が亡くなった年(50)くらいになってから・・・。私も見て見ぬふりを続けてきた人間のひとり。死ぬまで答えを探して生きていくのだと、覚悟を決めています。

※磯村勇斗くん、本年度の最優秀アカデミー助演男優賞、受賞おめでとうございます。ふさわしい演技だったと心から思います。これからのさらなる活躍を期待しています。



by eddy-web | 2024-03-20 00:00 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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