2024.2.01.
今日までの特別公開に、慌てて劇場へと・・・。その作品は2001年に公開されたアニメ作品“千年女優”。監督は今敏氏で、第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の大賞を受賞したもの。その年は同賞を宮崎監督の“千と千尋の神隠し”が同時受賞をしている。今監督が音楽から映像を描き出すという手法を取り入れ、音楽担当の平沢進氏と初タッグを組んだ記念すべき作品。映画のキャッチコピーは「その愛は狂気にも似ている」である。
今敏氏のことは実はあまり存じておらず、名前だけは知っている程度の認識だった。インターネットの情報でこの作品のことが、書かれていてその記事に脳みそが反応し今回の鑑賞となりました。世間は広く、こんな天才がまだいたのだと、目から鱗。というかまだまだ知らないことがあり、自身の勉強不足を嘆いています。
映画の感想の前に少し今敏氏のことに触れたい。今氏は1984年、武蔵野美術大学在学中に応募した作品「虜」で、ちばてつや賞」の新人賞を受賞。その後「カーブ」で漫画家としてデビューをはたす。そしてこれをきっかけに漫画界の重鎮、大友克洋氏アシスタントとして働くこととなる。大友氏が原作・脚本を手がけた「老人Z」で初めてアニメ制作に携わり、その後は順風満帆の実績を重ね、自ら「PERFECT BLUE]」で監督デビューを果たす。漫画家、アニメーター、監督、脚本家、小説家として活躍した人物だが、2010年突然病に倒れ、46歳の若さでこの世を去った。数々の賞を受賞し、評価の高い作品を創り続けた氏の最後は余りに衝撃的で漫画・アニメ界に取っては大きな損失となった。末期の膵臓癌を患い、余命半年と宣告を受けた後、身の回りの整理をし亡くなる前日までブログの更新をしていたとのこと。(存命中は病気のことは伏せている)
これだけ知ると、もっと早く監督の作品に出逢っていたら・・・と思うわたし。
さて作品、“千年女優”についての感想です。映画界を題材にした物語舞台は、「愛」という普遍的なテーマを軸に芸能界を突然引退した伝説の大女優・藤原千代子の生涯を通し、どこまでも「愛」を追いかける女の一途な姿を追いかけている。きっとモデルは原節子さんに違いないと、思うのだが・・・???である。一人の女と一人の女優が入り乱れて、ワンカットが音楽に共鳴して時空を飛び交う。パラレルワールドといってしまえば、今風だか人間の奥深くに漂う業のようなものが抉り取られた形で表現されている。独特な世界観は時を同じくして活躍した新海監督とも違った創造で、不思議な感覚を味わう。2001年の制作なので、いま見ると表現技術の進歩を知る人には少し古い感じも受ける。正直わたしにはそう映ったが音楽とのコラボ的表現には、テンポの早い展開と無駄のない構成にあっという間に物語の中へと、引き摺り込まれてしまう。「その愛は狂気にも似ている」という意味は最後に判るのだが、これは男の方が強く持っている感情のような気がする。見る人によって、色々な解釈が生まれるであろう作品だが、プロデューサーを務めた丸山正雄氏は、今敏の映画作品で最高傑作と謳っている。(ウィキペデイア参照)
虚実を手法に取りれたクリエイティブな作品は、物語の進行で晩年の日本映画のオマージュが込められ、映画ファンにはたまらないものになっている。今監督が多くの日本映画をこよなく愛していたことが窺える。遅ればせながら、作品に触れることができたことに、感謝しています。
残された他の作品も、ぜひ観たいと思います。アニメファンはもちろん、映画ファンにも観ていただきたい1本です。
P.S. 作品の重要なアイテムとなる「一番大切なものを開ける鍵・・・」というのが、とても印象に残る。形ではない、心の中に誰しもが持っているそんな気がする。そしてラストシーンで主人公・藤原千代子が言った台詞「だってあたし、あの人を追いかけているあたしが好きなんだもの」は、まさに業そのもではないでしょうか?