

2023.6.7
日本の映画が、こんなにも凄くなっていると実感しました。カンヌで脚本賞を受賞した“怪物”を鑑賞。監督はいまや日本の映画界を牽引していると行っても過言ではない是枝裕和氏。毎回新作を発表する度、いままで味わったことのない感動を与えてくれる。監督の信条は「誰かを悪者として描くことはしない」という一貫した手法。いままで観てきたどの作品にも「なるほど!」と頷く。今作はそこから一歩踏み込んだ作品のように、個人的には感じました。基本監督は自身で脚本を手掛け作品づくりをする。だが今作はあえて脚本を坂元裕二氏に預けた。是枝監督は以前から脚本家と組むなら坂本氏と即答するほどの大ファンだという。その願いが叶った今作“怪物”は、確かにいままでとは違う新しい息吹を感じる作品となり是枝作品の奧の深い観察力がきめ細やかに表現に用いられ言葉さえ失う。
予告編で連呼される言葉「かいぶつ、だぁ~~れだ?!」は、ラストでそれが自分たちだったことに気づかされます。私たちのなかにある自己中なものの見方が、ひとの人生さえも動かしてしまうという危険感をはらんでいることを思い知らされる。とても恐いことだが、きっと現実なのです。作品を見終わった後、言葉を失い「言い訳の出来ないこと」が日常の中で沢山あるのでは・・・と。
主人公の子役二人は、とてもイケメンで現代を象徴するような顔立ち。よくは知らないがきっとオーディションで数多くのひとたちの中から選ばれたのだろう。しかしこの子たちは、まわりを取り囲む凄い俳優さんたちをものともせず、その力を発揮しています。こんな難しい役をよく理解し演じたものだとつくづく感心してしまう。監督のひとを観る目の確かさは「誰も知らない」で主演し、見事カンヌで主演男優賞を最年少で獲得した柳楽優弥をみれば一目瞭然。きっと才能を見抜く目も才能の一部なのでしょう。
さて作品ですが、いままでの作品のような暖かい血の通った表現はあまり観られず、むしろ客観的に冷たく突き放す形で物語が紡がれる。「おや?」何時もとは違うなぁと戸惑うわたし。同じシーンを繰り返し使い、時間差攻撃で物語の真実を紐解いていく巧みな手法は「えっ!!」と思わせ混乱する。だが、物語が進むにつれ自分たちのものの見方がいかに曖昧なものであるかを、ジワジワと思い知らされます。人間の本質「利己主義」があぶり出され、とても歯がゆく恥ずかしい気持ちにさえなっていく。永遠の課題ともいえる「信じる事の難しさ」がコンセプトとなり深く考えさせられます。ある意味「いい人を演じている」自分が思い浮かび、自身暗記さえ覚えてしまう。「嘘をついてはダメ!」と親から口を酸っぱく言われてきたが、どれだけ嘘をついて生きてきたことか?思い出せないくらいいっぱいです。正直に生きることは時としてひとを傷つけ、そして自身も傷を負う。
なんだか自分でも何を言いたいのか解らなくなって来ましたが、この作品の子どもたちのように出来れば正直に生きたいと思います。例えそれが間違った方向に向ってしまっても・・・。そんなことを思ってしまう作品です。そして素直の謝れるひとになりたいとも・・・。
P.S. 安藤サクラさん、瑛太さん、田中裕子さん、お疲れさまでした。素晴らしい作品でした。みなさんの力が画面から溢れ、なんとも言えない気持ちになりました。生きることの難しさを見事に表現されているそんな映画に出会え、感慨深い念いをつのらせています。「ありがとうございました」。この作品の映画音楽を担当した坂本龍一さんのピアノの音色が、物語を包み込みとても味わい深い旋律が沁みてきます。この作品には無くてはならない音楽では無いでしょうか・・・。「ご冥福をこころよりお祈りいたします」