2023.2.14.
ミュージカル映画“ラ・ラ・ランド”の監督、デイミアン・チャゼルが脚本・監督を手がけた最作“BABYLON”を鑑賞。ブラッド・ピットとマーゴット・ロビーの共演ということもあり、公開前からの話題作。舞台は1920年代を皮切りに、サイレントからトキーへと変わりゆく時代の変化に合わせ、ハリウッド黄金時代を生きる3人の主人公を通し浮かび上がらせる。サイレント映画の大スタージャックをブラピが、大スターを夢見る新人女優ネリーをマーゴット・ロビーが演じている。そして二人に関わるマニーをメキシコ出身のディエゴ・カルバが映画製作を夢見る青年を映画そのままに等身大の役で演じている。初っぱなからセクシーな衣装に身を包み登場するネリーは、ジャズ・ミュージックの音色にのりゴージャスな演出で観客を圧倒する。黄金時代の狂気乱舞を体感するようなど派手なパーティシーンは、ファッションと音楽がリンクしあっと言う間にスクリーンの中へ引っ張り込む。派手な演出とはウラハラに、物語は時代に流された三人の栄光と挫折を見事に表現しています。夢と引き換えに人のこころを翻弄し、そして狂わせていく黄金時代の迷宮は映画界の表裏を映し出し何とも言えない余韻を残します。アメリカンドリームを叶えるためには、大きな犠牲が伴うと物語は語っているような気がします。
撮影シーンはまさにアナログ時代を象徴したもので、手創り感満載。それがむしろ新鮮に映り、古き良き時代の映画づくりの舞台裏がユーモアを交え壮大に描かれ映画好きにはたまらない…。こんな時代を超えて来て、いまがあるのだと思うとますます映画が好きになります。ブラピもロビーも熱演ですが、マニーを演じたディエゴ・カルバがとても印象に残りました。いまでも取りざたされる差別問題は、当時とは比較にならないことだったに違いないと感じさせてくれる見事な演技でした。はじめて観る俳優さんでしたが、本国メキシコではかなり売れっ子らしい。物語の主人公と同じで、きっとこれからハリウッドで活躍するひとになるかも知れません。脇を固めていた俳優さんたちも、かなり濃いめのキャラばかりで、トビー・マグワイア(初代スパイダーマン)は、かなりヤバメでした。業界をも動かすゴシップ・コラムニストのエリノアを演じたジーン・スマートが劇中にジャックに浴びせた「あなたの時代は終わったのよ!」は、言われたくはない言葉だがこれこそが、“BABYLON”のコンセプト。だれにでも訪れる瞬間が、皮肉だがストレートに表現され胸に響きます。はじまりがあれば、かならず終わりが訪れるということ。エリノアはその後、「時代が終ってもその作品は残り、あなたの名は永遠に残るのよ」とも…。素晴らしい演技とその台詞にこころ打たれたわたしです。舞台俳優出身のリー・ジュン・リーの怪しげな東洋の美人歌手の妖艶な演技もマーゴット・ロビーを喰っちゃってました。トランペット奏者のシドニー役のジョヴァン・アデポもジャズミュージックに合わせ、作品にはなくてはならい華を添え哀愁を紡ぎ出しています。音楽最高です。とりとめもなく語ってしまいましたが、まさにハリウッドでしか出来ないエンターテイメントの象徴とも言える作品の完成です。この時代の危うい感覚が狂喜乱舞した作品を、ぜひ鑑賞してみてください。ちょっとハードなので疲れるかも知れませんが…。
P.S. 映画に登場する人たちはそのほとんどが、それぞれにモデルになった人物がいたそうです。もちろん物語のような終焉を迎えた訳ではありませんが、時代に翻弄された人生だったことは間違いないみたいです。なにかちょっと哀しくもあり寂しくもありって感じです。