2022.9.29.
2020年に公開され数々の映画賞に輝いた“ミッドナイトスワン”。それを制作したCULENが創った最新作、“SABAKAN”。当然期待せずにはいられない・・・。
“ミッドナイトスワン”では、トランスジェンダーという「性差別」をテーマに深く切り込み、主人公の心と体の葛藤を見事に表現しました。あれから2年、“SABAKAN”というタイトルには妙に郷愁を誘う響きがあり、鑑賞まえからわくわくのわたし。
さて、感想です。このBLOGで先日、作品“百花”の感想をのべ、今年度最高の作品と熱く語ったわたしですが、日本映画界の底力をみせられたような作品がまた現われました。全然テイストが違う作品なのでどちらが一番とは言えませんが、間違いなく甲乙つけがたい素晴らしい作品としてこころに刻まれました。草薙剛さんが物語の主人公(晩年)の役で、再び出演している。物語は1986年の長崎を舞台にした、ふたりの少年が経験する、ひと夏の冒険を軸にした友情が描かれています。美しい海、青い空、行ったことさえないのに何処か懐かしい感覚を覚える町(村?)の風景。そこにはおおらかな愛に包また家族の暮らしがあり、裕福ではないが暖かいこころの絆がはぐくまれていました。
その昔、仕事で某アパレルメーカーの広告(子供服)で、「ぼくらは夏に背がのびる」という作品を創った事があります。今回観た“SABAKAN”は、まさにこのキャッチフレーズそのもの。何故か親近感を覚えたわたしです。のんびりとした九州という土地柄もあるのでしょうが、わたしが過ごした幼少期の下町生活と重なる部分が多く、主人公の少年たちへの感情移入がとても強くなりました。こころの動きが手に取るように解り、まるでいっしょにスクリーンの中を旅しているそんな感覚を味わった自分。人は思いがけないことが切っ掛けで人を好きになり、生涯の友として繋がりを紡ぎます。ごくごく平凡な毎日が、こんなにも幸せな事なんだと改めて気づかされる映画でした。いろいろなひとたちとの出会いや冒険、そして別れ。ひと夏の思い出が、一生涯の宝物になった二人の物語に思いっきり泣いてください。わたしは出来ませんでしたが、大声を出して泣けたら本当によかったのに・・・と思っています。
この作品はTVドラマ「半沢直樹」の脚本を手掛けた金沢知樹氏の初メガホン作品。聞くところによると、創作ではあるが監督自身の実体験が反映されている作品とのこと。子どもの頃の思い出は、毎日がワクワクドキドキの連続。そんな事がこの作品の原動力になっているに違いありません。戻れるものならもう一度、こんな時間を過ごしたいと本当に思います。お勧めの一本です。公開してから大分時間が経っているので、出来るだけ早めに劇場を探し観てください。絶対に後悔はしない素晴らしい作品です。
P.S. 主人公の少年、孝明役(番家一路)と健次役(原田琥之佑)を演じた二人の演技には脱帽です。自然体の二人は本当の友だちとして芝居を超え役になりきっています。芸名か本名か解りませんが、2人共大物を匂わせる名前です。また、何処かで会いたいものです。脇を固めている尾野真千子(孝明の母)、竹原ピストル(孝明の父)は、昭和を代表するような父母像を創り上げ凄く幸せな気持ちにさせてくれました。また、健治の母を演じた貫地谷しほりさんもとても味わい深い演技をし、涙をさそう。草薙くんは今回サブ的な出演ですが、しっかりと存在感をみせ物語のストーリーテーラーを演じていました。恐いじじいを演じた岩松了さんの存在も忘れてはいけません。昔こんな近所のおじさんいましたね、ほんとうに・・・。
映画が終わらないうちに、早く劇場に足を運んでください。