

2022.6.24.
是枝裕和監督の話題作、“ベイビー・ブローカー”を公開初日に鑑賞。監督作品をはじめて観たのが、“誰も知らない”でその時の衝撃はいまも強く残り、日本にもこんな凄い監督がいるのだとこころからそう思った。つい最近TVで前々作の“万引き家族”が放映されていた。もちろん劇場で観てはいるが、何度観てもこころに沁みる作品である。監督はドキュメンタリー出身で観察力を重視した映像美は、創り上げてきた作品に一貫して表現されている。すべての作品を観ているわけではないので偉そうなことは言えませんが、日常の中ではあまり話題にならないような小さな隙間に挟まった忘れ物を見つけ出し、わたしたちに紡いで魅せてくれる。日本はもとより海外でも高く評価され、カンヌをはじめ名だたる映画賞を多く手に入れている。ある記事で読んだのだが、作品の中で「誰かを悪者として描くことをしない」というスタンスを貫いているとのこと。たしかに生きることに不器用で悪さもするひとたちが作品の中で良く描かれるのだが、みな善人ばかり・・・。そのあたりが何とも言えず、哀しくもありせつないのである。いつも泣かされてしまうが、半分は悲しみより悔しさが上回っている。世の中はなんて不条理に出来ているのだろうと、どうしようもない無力さを鑑賞する側に伝えてくる。そして世の中には本当に悪い人間なんか、存在しないと訴えてきます。
さて、今作は舞台を韓国に移しキャストはもちろん、スタッフをはじめほとんど映画制作に関わるひとたちが韓国のひと。前作“真実”でも、大女優カトリーヌ・ドヌーヴをはじめ、ジュリエット・ビノッシュやイーサン・ホークなどをキャスティングし、フランスの映画制作陣を使って作品を創り上げた。ヒットこそしなかったようだが、是枝監督の繊細なタッチが随所に表現され高い評価を得たようである。残念ですが、わたしはまだ観ておりません。何処かの名画座に掛るときを見つけ、ぜひ鑑賞しようと思っています。
本題の“ベイビー・ブローカー”の話をしましょう。まずは素晴らしい作品だと言っておきます。前文でも話しましたが是枝監督のテーマに対する思いの深さが見事に表現化され、ジンワリと涙を誘います。押しつけ的なところはひとつもなく、まぜか知らぬ間に涙が頬をつたっているという現象です。今回のテーマは「人身売買」がキーワードだが、それだけに止まらない社会的背景をさまざまな角度から浮かび上がらせ、観る側に正しいこととはを問いかけてくる。日本でも話題になった「赤ちゃんポスト」が冒頭に登場する。日本でも物議を醸し出した、命を守るためのひとつの答え。舞台は韓国で作品は、日本以上に重たい現実が横たわり考えさせられる。雨の中、ポストの前に赤ちゃんを置く若い女性を、遠間から観ている刑事の「捨てるくらいなら生むなよ!」という台詞が胸を衝く。確かにその通りなのだが・・・。そこから物語は予想を遙かに超えて展開へとつがっていく。出演者がみな、とにかく上手い!それぞれに立場の違いはあれど、きれいに繋がっていくこころの線。はじめに言ったまさに「誰かを悪者として描くことをしない」そのものの表現でした。主役のブローカーを演じたソン・ガンホさん、本当に上手い役者さんだと思います。相棒役のガン・ドンウォンや母親役のイ・ジウン、そして彼らを追う女刑事ベ・ドゥナとイ・ジュヨン。どの俳優さんも見事な役作りをし魅せてくれました。
P.S. 余談ですが最近「韓流ドラマ」にはまっているのですが、劇中にドラマで見かけた俳優さんたちを数名見つけ何だかちょっと驚いたり嬉しかったりと妙な気分になりました。いろいろと考えさせられる映画ですが、考える機会をいただいたと素直に受け止め、ぜひ多くの方に鑑賞することをお勧め致します。音楽の使い方が素晴らしく、ピアノの旋律が映像とリンクし、より叙情感を深めています。このあたりの演出も見事ではないでしょうか・・・。