2022.1.17
大好きな映画人クリント・イーストウッドの最新話題作、“クライ・マッチョ”を鑑賞。イーストウッド氏91歳。ハリウッド映画史の黄金期から現在に至るまでの長きに渡り、第一線で活躍してきたレジェンドの代表である。そのイーストウッドは俳優だけでなく、監督としても高い評価を獲ているのは周知の事実。そして今作は監督デビュー50周年記念作品として紹介され、話題を呼んでいる。映画業界とは何でもくくりにし、宣伝に使うところがちょっと気に入らない。本人はきっとそんなこと気にもしていないと察するわたしです。
長い間、彼を観てきた。小学生の頃観たTVの西部劇ドラマ、「ローハイド」の若き補佐官エディは、隊長のフェイバーさんほど頼りにはならないが真っ直ぐな性格が全面にでるカッコいいカウボーイだった。その後マカロニウエスタンと呼ばれた、イタリア製西部劇、“荒野の用心棒/夕陽のガンマン/続・夕陽のガンマン”ドル箱3部作に出演し、彼の名は不動のものとなった。アメリカでは似非西部劇として酷評されたりもしたようだが、ファンにはそんなことどうでも良く、彼のカッコいいガン捌きに憧れ夢中になった。その後アメリカに戻り西部劇はもとより、さまざまなジャンルの映画に出演。中でも再び彼をスターダムに押し上げた刑事ドラマ“ダーティハリー”は、彼の代表作のひとつとなった。破天荒な刑事キャラハンが44マグナムを派手にぶっ放し、悪党たちをバッタバッタと倒す姿に、若者たちはこぞって映画館へと足を運んだ。わたしはそのキャリアの真っ只中をず~~っと観てきましたが、晩年の今、成熟したいぶし銀のような輝きを放つ彼の姿は、ただスクリーンの中に浮かび上がるだけで喜びを感じてしまいます。彼の話は切りがないほど出てきてしまうので、取りあえずここまでとしまた機会がありましたらお話をしましょう。
さて、今作“クライ・マッチョ”ですが、宣伝文句がかえって邪魔な気さえしています。はじめにも言いましたが、イーストウッドが何歳だとか、何十周年だとかはどうでも言いこと。彼が凄いのは映画人を長くやっている事ではなく、作品への思い入れ(愛)がだれよりも深くピュアだと言うこと。そんな監督や俳優はそうそういないのです。今作も映画愛がひしひしと伝わり、とても良い時間を手にしました。91歳のカウボーイは正直格好良くありません。歩く姿も背中が丸く、時折ふらつく足下からは“夕陽のガンマン”は想像出来ない。作品の主人公マイク役のオファーは十数年前に一度あったと、ある記事に載っていました。その時彼は、「わたしにはまだ若すぎる」と断ったと記されています。これはこの役を演じるのには、まだキャリアが足りないという、彼だかから言える人生の重さを感じ取ることが出来ます。一度はお蔵入りした脚本を蘇らせ挑んだ今作は、イーストウッドそのものというべき人物像を浮かび上がらせ、何とも言えない深い愛を創り上げています。マッチョ(強さ)は、彼の名にふさわしい呼び名であることは紛れもない事実である。メキシコの渇いた空気感と心地よい音楽が、物語の雰囲気を盛り上げ老カーボーイと愛を知らない少年のロードムービーに味わいを添えている。たんたんと流れる時間の重みと大切さがこころに沁みる一本です。本国の評論は賛否が分かれいまいちとされているようだが、彼の魅力に満ちている今作にわたしは大満足。こんな歳の重ね方が出来たら、どんなに幸せなことだろう。まだまだ、元気で頑張って欲しいクリント・イーストウッド氏である。
P.S. 劇中に「マッチョ」という名の闘鶏が出ています。こんなに活躍するニワトリをいままで観たことがありません。大活躍のニワトリくんに拍手です。