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よもやまシネマ569 “梅切らぬバカ”
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2021.11.15

コロナ禍の中、今ほど平凡な日常がどれほどありがたいことかを実感する毎日はありません。そんなある日某人気TV番組「Tの部屋」に出演していた加賀まりこさんを拝見しました。変わらない美しさと歯に衣着せぬ物言いは健在で、小気味良いトークと真っ直ぐな性格にいっそう強く引かれました。その番組の中で自身が主演した映画の最新作、“梅切らぬバカ”を紹介していたのですが、内容に強い印象を受けそれを観に劇場に足を運びました。
さて、感想です。個人的には胸のど真ん中に直球のストライクをもらい、何とも言えない余韻を味わっています。とても地味なテーマではありますが、日常が崩れてしまったコロナ禍のいま、平凡とは言えないひとびとがひっそりと暮らす日常があることを知る良い機会を創っています。不安を抱えながらもそれを表に出さず、日々穏やかな暮らしを求める母子の物語はひととひとの繋がりとは?を問いかける佳作ではないでしょうか・・・。
まずは監督・脚本を手掛けた、和島香太郎さんのこの作品に込めた念いの深さにとても共感を持ちました。物語の主人公は自閉症を患う子を持つ母親との生活を、淡々と描き社会との関わりを浮かび上がらせています。難しいテーマに真摯に向き合い、そして奇をてらわない演出と自然体な表現は清々しさを感じる作品となっています。この手の作品は、言い方は悪いがどうしても「お涙頂戴」的な方向に向って行くのが見え隠れします。ところがこの作品には、そんないやらしい部分はまったく無く、ただひたすらに自然の流れと生活の営みを紡ぎ出し、世の中にはこんな人々も生活しているのだと教えてくれる。38歳という若さでこの境地に至る監督さんの器量の大きさに驚きます。実はわたし事ですが、実兄が知的障害を持っていて幼い頃からいろいろな経験を積んできた分、思い入れが深くこの作品をひとごととは捉えられずにいます。当事者は普通に生きたいと思っているのですが、周りの目が気になり何か隠れるように生きてきた現実。そんなことを考えると、この映画で描かれている親子の関係は言葉では伝わらない優しさに包まれ胸に響くものになりました。社会に救いを求めている訳でもなくひたすら、こういうひとたち(障害者)がわたしたちと同じように暮らす社会を浮かび上がらせ考える時間を創っています。それだけでも充分価値と意味のあるそんな作品に拍手を贈ります。ぜひ、劇場に足を運び触れていただきたい作品です。主人公の予測できない言動に笑いが漏れるシーンが何度も出てきます。他人ごとではなく映画の中の出来事を観るのではなく、現実でも笑えるような人間関係を生む社会になってくれたら、こんなに嬉しいことはありません。
P.S. 母親珠子を演じた加賀まりこさんのキャスティングはまさにはまり役。素晴らしいのひとことです。自然体の演技はこの役では欠かせないポイント。TVに出演した時の話の中で、あるシーンではいろいろ考えてあれで良かったのか?と自問自答し、今でも結論が出ていないと漏らしておられました。その熱意には本当に頭が下がります。”泥の河“の母親役の時、哀しい性を抱え子どもたちを守る姿にドキっと胸うたれそれからず~~っとファンでいるわたし。深夜番組で観た昔の作品”月曜日のユカ”は、加賀まりこさんそのものという感じで、当時の作品としてはかなり前衛的な表現で、加賀さんの美しさは光り輝きオーラを感じさせてくれました。いまも年輪を重ねた美しさに溢れ、飾らない性格と合わせてわたしには唯一無二の存在です。今作に出演した俳優さんたちもみなさん素晴らしく、それぞれの役を見事に演じてとてもリアルな表現に、観る側を時にいらつかせそして、時にホロッとさせてくれます。難しい役・息子(自閉症)忠さんを演じた塚地武雅さんの演技も、作品のもつメッセージを伝える素晴らしいものになっています。無垢な心象を見事表現し、こちらにも拍手です。リサーチなど苦労も多かったと聞いております。良い作品に良い役者さんが揃うと、自ずから良い作品が生まれることを実感しました。
※作品の中で、自閉症という表現が一切使われていないことに、和島監督の強い信念が感じられることをひとつ付け加えておきましょう。


by eddy-web | 2021-11-19 00:00 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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