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よもやまシネマ562 “空白”
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2021.9.28

緊急事態宣言の解除が発表されました。少しだけですが希望の光りが差したそんなニュースです。そんな中、観たくてしょうがなかった“空白”を鑑賞。昨年観た“ミッドナイトスワン」と同じくらい感動しました。やや暗い物語ですが、ぜひ観て欲しい一本です。
物語は冒頭からショッキングなシーンではじまり、あっという間にスクリーンに引きずり込まれます。監督は2006年“なま夏”で監督デビューをはたし、着実にその評価を高めている吉田恵輔氏。“ヒメアノール”や“BLUEブルー”を手がけた監督だとは知っていたのですが、今作がはじめての鑑賞となりました。監督は企画を長い間暖め、熟成を感じた瞬間から製作をはじめるひとと某記事で読みました。独自の観点から脚本を自ら執筆し編集までも手がける職人肌の人らしい・・・。学生時代からの憧れだった塚本晋也監督の作品制作に参加し照明を担当し、照明や音楽など映画に欠かせない技術の感性を磨きそして監督となったと聞いています。
そんな監督の最新作はいままで創り上げて来た、どの作品とも違う渾身の一作が“空白”とのこと。他の作品を観ていないので生意気なことは言えませんが、見終えた瞬間から何とも言えない余韻が体中を駆け巡るそんな作品でした。それはある意味不快とも思える、いや~~な心残りが渦巻き映画を通り越し自身への問いかけへと繋がっていきます。物語はエンタメとは言いがたい内容で、どこにでもある日常の中で生きる人たちの愚かな行動を浮かび上がらせ進んで行く。出て来る人たちはみな癖は強いが、悪い人はひとりもいない。どちらかと言えば世の中に埋もれている普通のひとたち。そんなひとたちの日常がある瞬間から一変する。だれにでも降って掛かる出来事を境に、不幸の連鎖へと物語は進んで行く。見終わると「思いっきり怒鳴りたくなる。思いっきり泣きたくなる。そして思いっきい愛するひとを抱きしめたくなる。」そんな思いで心がざわつき、激しい感情の波が何度も押しては返して止まりません。登場するひとたちは、みな一生懸命に生きているのですが、どことなく孤独感を抱えているようなそんな感じが溢れています。どのひとも自分自身と重なる部分が多く、おのれの中にある虚栄や傲慢さを気づかされ情けないくらい哀しくなる。
その昔「三無主義」と言う言葉が生まれた事を思い出した。今は死語になりつつある言葉かも知れないが、その意味は「無気力、無関心、無責任」。その後時代と共に新たな言葉が加わり無感動、無責任の「五無主義」へと変わっていまを迎えています。若者たちを象徴とした言葉でしたが、その世代が年を重ねいまの社会が創られています。
この作品はどうしようもない閉塞感を映し出しています。プログラムに載っていたこの作品のテーマ“不寛容”と言う「他人を受け入れない。他人に興味がない」という感情。タイトル“空白”はその感情をまとめた「からっぽ」ということを意味しているよう・・・。なんだか救いがたい言葉だが、そこを埋めてこそ前に一歩足を踏み出せるというメッセージが隠されているそんな気がします。いろいろと考えさせられる作品ですが、絶対に観て欲しい作品です。いま窮屈な日々を送る私たちだからこそ、観なくては行けない逸品ではないでしょうか?
主人公・添田を演じた古田新太さんは、立っているだけで威圧感を感じさせるそんな演技で圧倒されます。もともと強面のアクターですが、内面から滲み出て来る人間の凄みみたいなものが言葉にならない感情をむき出しに出し凄いのひとこと。対する青柳を演じた、松阪桃李の感情を表に現す事のない無表情の青年が対照的に描かれ、時代を象徴するような演出になっています。松坂くんは新作に出演する度、難しい役を見事にこなし毎回凄い俳優さんだと感心させられるひと。この二人のバトルはリアルで、ひとごとにとらえてみる事が出来ない迫真の姿でした。芝居と言ってはいけないほどの、感情移入させられるこころの叫びを感じる瞬間の連続でした。また、脇を固めていたどの俳優さんたちも、二人に負けず劣らずオーラを発散し、この作品の持つ意味と伝えようとする意思がまさにひとつとなっています。まさにワンチームの作品となった秀作。登場するひとたちのだれとは言いませんが、きっとあなたもこのひとたちと重なる自分がいると確信するはずです。それを感じた瞬間から、いまの生き方をすこし考えるいい切っ掛けになるそんな作品ではないでしょうか・・・。
P.S. ラスト近くで添田が吐露する台詞「みんな、どうやって折り合いをつけてるのかな?」は、本当に重たい言葉でした。                                                        
by eddy-web | 2021-09-29 16:39 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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