![]() ![]() 2021.9.10. 今年の「第74回カンヌ国際映画祭」において、脚本賞を受賞したほか他の映画賞を合わせて4冠受賞し話題になっている日本映画“ドライブ・マイ・カー”を観てきました。 賞を獲ったから良い作品とは必ずしも思いませんが、この作品はわたしの心に残る一作となりました。作品は、毎年ノーベル文学賞に話題が上る村上春樹氏の「女のいない男たち」という短編が原作。世界中にファンを持つ村上氏の作品は度々映画化され、わたしは2010年に公開された“ノルウェイの森”を観ています。氏の作品を映像化するのはかなりハードルが高いのではと思っている自分。どちらかというと読者の想像力にゆだねる形式の作品という印象の村上文学。目には見えないものを形に表す作業が伴い、千差万別の感情の隙間を埋めるのは相当な労力が必要ではないでしょうか?“ノルウェイの森”を観た時、わたしの感性が追いつけなかったのか正直???の感情が残ってしまいイマイチでした。原作の持つ奥深い感性をフィルム上に表現することは、相当な覚悟と信念が必要なのではないでしょうか?そんな経験からか、不安な気持ちを抱えながらの鑑賞でしたが、見事に裏切られる素晴らしい作品になっておりました。 ロードムービー的な物語の流れにはなっていますが、登場人物ひとりひとりにきめ細やかなスポットを当てた見事な演出に、知らず知らず画面の中に引き込まれてしまいます。主人公・家福悠介は著名な演出家で、数年前に妻を亡くしその喪失感を抱えながら仕事と向き合いその空虚感を埋めている人物。そんな彼の元に舞い込んだチェーホフの「ワーニャ伯父さん」と「ゴドーを待ちながら」ベースにした舞台劇の演出。チェーホフの原作に出てくる人物たちと、今作の登場人物たちの繊細な感情描写が絡み合う圧倒的な演出と脚本の凄さに圧倒されこころが揺さぶられる。舞台劇は海外キャストを絡め手話を含む9つの言語で紡がれる斬新な演出になっていて、そのシーンだけでも唯一無二の物語を創り上げています。言葉だけでは作り得ないこころの叫びを舞台劇の創作に込め、生きることの、生きて行くことの苦悩と再生の道が見事に描かれた作品は久々の秀作と言えるでしょう。久しぶりに深い余韻を楽しむことが出来、とても優しい気持ちになりました。 主人公・家福悠介を演じた西島秀俊さんの苦悩を抱えた静かな演技は秀逸です。物語にはさまざまな国の俳優さんが出演し、新しいコミュニケーションの姿を創り上げ、その確かな演技力が光っています。主人公の心情と共に進むストーリー展開は、彼の関わる舞台劇とのアンサンブルが見事に重なり、重厚な作品に仕上がりさらに印象を強くしています。そして作品のもうひとりの主人公とも言える女ドライバー・みさきの存在が物語の重要なカギを担い、さらに物語に厚みを創り上げ感動を誘います。家福が公演先の広島で主催者側から紹介を受け、雇うことになった専属のドライバー・みさき。演じた三浦透子さんが実にいい味を醸し出しています。一見無表情に見えるクールな仕草に、はじめは違和感を覚えますが、次第に明かされる彼女のこころに宿る傷跡に自身と同じ匂いを感じ、溶け始める家福の感情の様は涙を誘います。劇中の後半に交された二人の言葉「君は母を殺し、僕は妻を殺した」という言葉の重さが、胸に刻まれる台詞となりました。煙草が作品中、主人公二人を繋ぐアイテムとしてうまく使われています。煙草が大の苦手なわたしですが、みさきがさりげなく煙草をくゆらせる姿に哀愁を感じ、愛しささえ感じてしまいました。 人は多かれ少なかれ人には語ることの出来ない過去を抱えています。この作品は、過去から逃げるのではなく事実を素直に認め、それでも生きて行かなければならないと謳っています。なかなか難しいことではありますが、その通りだとわたしは感じます。いい映画でした。 P.S. キャストの俳優さんたちはみなさん素晴らしい演技をして印象に残る人ばかりでしたが、中でも若手俳優・高槻を演じた岡田将生くんは主人公の二人に割って入る素晴らしい演技でした。コロナ禍の中、いま自身の平常心を保つために見続ける映画。一時の安らぎと希望を与えてくれるその世界に、感謝感謝の毎日です。
by eddy-web
| 2021-09-12 00:00
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