2021.8.11.
山田洋次監督の最新作、“キネマの神様”を鑑賞しました。この作品はみなさんもご存知のコロナ禍の中、さまざまな苦難を乗り越えようやく完成した作品。何と言っても一番衝撃だったのは、主演を予定されていた志村けんさんの急逝。世間を驚かせた、まさか?のニュースは、コロナの恐ろしさを認識させわたしたちのこころに暗い影を落としました。いまだに衰えることなくますます猛威を振るい続けるコロナに、挑戦するかのような山田組の念いを乗せた作品が今作“キネマの神様”。観ればその念いがひしひしと伝わり、涙が溢れる山田ワールドの世界にこころが癒やされ、ひとときの安らぎを感じることができます。
この作品は、山田監督が持ち続ける映画愛に満ちた作品。数々の名作を世に送り出してきた監督のいまだに変わることのない映画製作に対する愛と、映画界の歴史を創り上げてきた先輩たちへのレクイエムとして、創り上げられた作品ではないでしょうか?映画創りの関わる人々への感謝やオマージュのこころが詰まった、映画好きにはたまらない古き良き時代の熱い想いが溢れています。
さて、感想ですがまず思ったことは山田監督自信を投影した作品ではないだろうかと感じたこと。主人公は間違いなく山田監督の分身のように思えます。大きな違いは山田監督は映画界に確かな足跡を残し、主人公は残念なことにそれを最後まで成し遂げることが出来なかったということ。きっと映画界に止まらず、こういうことは世の中に沢山あるのだと思います。夢破れても尚、その経験が唯一のほこりであり生きがいとなっているひとたちの物語を紡ぎ出し、映画の持つ素晴らしさと可能性を伝えています。山田監督の優しさに溢れた作品は、映画製作総括とも思える作品となっています。
劇中映画制作の初期を浮かび上がらせ、当時の撮影の難しさや苦労などが丁寧に創られ、懐かしさと同時にアナログ世界の手作り感にとても人間味を感じました。撮影技術のめざましい発展により、ほぼ何でも出来るといっていい現在ですが、こんな時代があってこそ今があるのだとつくづく感じる瞬間です。夢を追いかけ創造されていった映画の世界は、まさにこういう先人たちがいたからこそ現在に結びついているのです。
若き日の主人公ゴウの演じた菅田将暉。そして晩年のゴウを演じた沢田研二。ふたりとも山田監督の期待にこたえる瑞々しい演技で、こころに残ります。作品には主人公が夢半ばで業界を去り晩年に至までの時間は描かれていませんが、そのあたりを想像するのもなかなか乙なものでは。作品に描かれた物語以上に、きっといろいろなことがあったに違いありません。人生とは思い通りにならないことのほうが、思い通りになることより何十倍、何百倍多いのだと思います。だから夢を持つことや、夢を追うことにとても大きな意味と価値があるのだと感じさせてくれた映画となりました。「生きてきて良かった」と最後に言える、そんな人生を迎えれるようにもう少し頑張ってみたいと思います。
P.S. 久しぶりにスクリーンに登場した沢田研二さん。ジュリーも年を重ね主人公ゴウに乗り移ったかのような渾身の芝居をみせています。年をとるとはこう言うことなのだと思えるような、いさぎの良いカッコ良さがあらためて感じる事が出来た演技でした。志村けんへの念いが詰まった演技に拍手です。