

2021.4.15
今日観た作品は“ミナリ”。この作品も先週観た“ノマドランド”同様、今年度アカデミー賞に6部門でノミネートされています。すでにゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞し数多くの映画賞で高い評価を得ている話題作。監督はリー・アイザック・チョンという長編作品5作目の若い監督である。今作は彼の半自伝的作品であると言われ、1980年代を舞台に韓国系移民の家族の一攫千金の夢を追うジェイコブとその家族が織りなす家族の生活と絆を描いています。肩に力の入らぬ演出はシンプルで、ごく普通の日常を淡々と描き、見る側の生活が重なり好感が膨らむ。日々の良くある出来事がそこには映し出され、なにか懐かしさを覚える。個人的な感想ですが、小津安二郎監督の作風に近いものを感じました。日常の中の当たり前の風景が丁寧な演出で浮かび上がり、「幸せ」とはと本当の意味を紡いでみせる。出演している俳優さんたちが、それぞれの役に同化し見事にリアリティを創り上げ観客のこころに入り込む。夫ジェイコブを演じたスティーブン・ユァン、そして妻モニカを演じたハン・イェリは完璧といえる夫婦と両親役をこなし、それぞれの立場と想いを力強く演じ共感を生み出します。また、その子どもを演じた息子デビット役のアラン・キム、長女アン役のノエル・ケイト・チョーの自然体の大人も唸る存在感を生み出し難しい役を見事演じています。さらになんと言っても中盤からこの家族に加わるオバアちゃん・スンジャ役ユン・ヨジョンは、圧倒的存在感で私たちの目とこころをわしづかみにします。デビットとの丁々発止のやり取りは、物語に光と希望を表し家庭内で巻き起こるさまざまな問題もふと忘れさてくれる。きっとこんな日常はわたしたちの多くが、いつも経験している出来事だからこそ作品に共感するのではないでしょうか?まるで本当の家族のようで、偽りの家族とはまったく感じられないほど素晴らしくこの作品のすべてと言っていい演技力のアンサンブルを生み出しています。観賞後、日常の生活を振り返りこんなにひとを思いやり活きているかを自問自答してしまう。忘れていた感情がふと甦る瞬間に触れ、とても温かな気持ちになれるそんな作品です。
エンタメ的にはちょっともの足りないと感じるひともいると思いますが、コロナ禍で煮詰まっている日常に大切なものを呼び戻す切っ掛けになる作品だと思います。ぜひ、ご鑑賞あれ!!
P.S. オバアちゃん役のユン・ヨジョンさんがとても強く印象に残ります。北朝鮮生まれの俳優さんは、毒舌だが憎めない昔ながらのオバアちゃんを家族を包み込む演技で作品のテーマを紡ぎだしています。昨年のアカデミー賞を受賞した“パラサイト 半地下の家族” に続き、アジアの風がハリウッドに旋風を巻き起こしています。ぜひ、日本もこの風の中に入るyとうな作品を生み出してくれることをこころから願いたいと思います。
予断ですが、リー・アイザック・チョン監督の次回作は、日本のアニメ“君の名は”の実写版だそうです。小野難しい創造性をどう表現するのか、期待と不安をまじえ興味は尽きません。
※ミナリとは韓国語でセリを意味する。セリは春の七草のひとつで水田や湿地に生える多年草。食べる機会は最近ほとんど無くなったが、幼年期に母とセリ採りに行った記憶が甦ります。最近妻の田舎から送られてきて、おひたしや天ぷらにし食しました。春の薫りが口いっぱいに広がり、とても懐かしい味がしました。
公式サイトの説明によると「たくましく地に寝を張り、2度目の旬が最も美味しい事から、子ども世代が懸命に生きるという意味が込められている」とのこと。まさにこの作品のテーマではないでしょうか?