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よもやまシネマ521 “異端の鳥”
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2020.10.27

ここ数日さわやかな秋らしい日が続き、ほんの少しだが気分がいい。そんな中Netで話題のチェコとウクライナ合作作品、“異端の鳥”を観に日比谷へ出かけた。
さて、今回見た“異端の鳥”のNet記事では「来場者が途中退場する作品」として紹介されていた。2019年に発表され各映画祭で賛否が分かれた理由は、作品のクオリティが低い訳では無く、表現が余りにリアル且つショッキングなシーンで積み上げられているからにほかならない。確かに映像表現は秀逸で、物語を章ごとに分け、まるで写真集のページを捲りながら進んで行くような演出となっている。モノトーンで撮られた各シーンは、監督の美的感覚が伝わる印象深いシーンの連続である。映画祭ではこの映像の芸術性が高く評価され、多くの賞に輝いたようである。
記事の続きに「正視に耐えられない」ということで途中退場する人が多かった反面、最後まで観た観客からはスタンディングオベーションが起こったという。この奇妙な現象に、ここ数年の中で最大の問題作と言われているそうである。
この作品は2時間49分という長尺の上、めを背けたくなる描写がこれでもかこれでもかと延々と続く。これにはわたしも正直倦怠感を覚えた。これにより途中で席を立つという流れが生じたのだと理解できる。私見だが何度も観たくなる映画とは、決して言えないのが本音。前に観た“ミッドサマー”という作品をかなりきつく言ったことがあるが、好きか嫌いかと言われれば好きな作品には選べない。“ミッドサマー”もそうであったように、作品の完成度は申し分なく素晴らしい。だが???である。単純に言えば好みでないということである。監督がこの作品を創ろうとしたことには相当な覚悟があっただろうし、その姿勢は大いに評価されるべきものであることは間違いない。戦争を背景に差別や権利、そして命の尊厳といった大きな課題を表現していて、考えさせられる。それは良い意味ででは無く、ある意味諦めに近い人間の中にある本質を問う、どうしようも無く拡がる個人主義の現われにも近い。自分の中にも「もしかしたら」と思うだけで、背筋が寒くなる。見終わると静かな歌(ポーランドの曲?)が流れ、エンドロールとなる。強烈過ぎて、すぐに席を立つことが出来なかったわたし。周りを見渡すと逆に1秒でも速くその場からいなくなりたいと思う人たちが出口へと・・・。感想はこんな感じですが、おおよそのイメージは伝わったかと思います。
物語はホロコーストから逃れ疎開した先での差別からはじまり、ひとりふるさとを目指し苦難の旅を続ける少年の話である。撮影にはかなりの時間を費やしたようで、主人公の少年も身長が伸び顔も次第に大人びてきている。もちろん少年の体験する過酷極まりない条件を乗り越えれば、当然変わる表情は当たり前。そこまでしても表現したいという信念が監督にはあったのだろう。原作はポーランドの作家イェジー・コシンスキの小説で、タイトルも同じく内容もほぼ忠実に描かれているそうである。発表当時、その内容故発禁になった国もあるそうである。リアル且つ、静寂のモノトーンで描かれた作品のインパクトは凄まじくしばらく夢にでそうである。主人公の少年を演じたぺトル・コトラールくんの頑張りには脱帽である。彼は全くの素人で選ばれたキャストというから恐れ入る。上手いなんて言葉では称賛出来ないほど、ただただ凄いのひと言です。脇をかためていた俳優さんたちの顔ぶれもすごく、ハーヴェイ・カイテルやウド・キアという個性俳優さんたちが多数でていました。みな鬼気迫る表情で役を演じていて、いっけん優しそうに見えるが何か裏がありそうと疑いたくなるような演出ばかりで疑心暗鬼になります。
さて、話しは長くなりそうなのでここまでにします。観る観ないはあなた次第。ただもし観たら、この作品について語り合うのもいいコミュニケーションを生むと思います。

P.S. ひとつ気がかりなことがある。主人公の少年は苦難を乗り越え父親と再会し、ふるさとを目指すバスに乗車し、そのバスを鳥瞰で捉えたカットで終わる。わたしはその後の少年がどうなっていくのかが、ひどく気がかりなのである。地獄のような時の中で生き残った彼が、とうていまともな精神状態であるわけが無い。物語の終盤でも、そこらへんが感じ取れるのである。それを思うとますます眠れなくなる、そんな日が続きそうで・・・。


by eddy-web | 2020-10-28 00:00 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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