2020. 10. 5
映画スタジオ「A24」。今業界をにぎわす新進気鋭の映画スタジオは、2012年に設立され次々とヒット作を世に送る最も注目を集めている会社である。「ルーム」でアカデミー作品賞、同じく「ルームライト」でも再びその栄光を手にしヒット作を連発。映画ファンたちも目を光らせ次回作に大きな期待をもつようになってきたがわたしもそのひとり。テーマが明確で、こころにスッと溶け込むそんな作品が多くジャンルも多彩。作風は個々に違うが個性的で独創性に富んでいるものが多い。次はどんな作品が出てくるのかと、映画ファンならその日が待ち遠しい。わたしの好きな“スイス・アーミーマン”やわたしの嫌いな“ミッド・サマー”もこのスタジオの作品だが、一風変わった常識を越える体感をさせてくれるものもある。
その「A24」が2019年に発表しジワジワと感動の話が拡がり、ついにはゴールデン・グローブ賞まで手にしたのが今作“フェアウェル”。
配給はアメリカだが、舞台は中国。アメリカ、中国、ロシアと、TVニュースをにぎわす自国優先の政策問題が大きな話題となっている昨今。エンタメは関係ないと解っていても、こころの隅っこに、中国という国にもやもやとしたイメージを持ってしまうわたし。それでも作品を信じ映画館へと足を運んだ。監督は当時無名の女性で、この作品世界に注目される人となったルル・ワン。自身の体験談をもとに脚本を書き上げ、監督をも手がけた家族愛のあり方を鋭い視線で追求した物語となっている。よくある話しではあるのだが、そこが逆に観る側に素直に伝わってくる。文化の違いや価値観、そして何よりもジェネレーションのギャップが見事に浮かび上がり「こんなことって、アル、アル」と、時に笑いそして泣いてしまう。アメリカで暮らす監督の目線が、愛国心と共に真逆の感情などが見え隠れしなかなか深い表現になっています。
その監督の分身のようなのが、主人公がビリーという名のニューヨークで暮らす女性。ビリーを演じたオークワフィナはこの作品で題77回ゴールデン・グローブ主演女優賞を獲得した。ニューヨークで夢を追いながら悪戦苦闘を繰り返すビリーのもとに届いた、突然の知らせ・・・。中国で暮らす最愛の祖母がガンで「余命三ヶ月」との、知らせ。安定しない自身の暮らしにモンモンとした生活を送っていたビリーだが、意を決して中国に帰郷。そこで起こる「嘘」の善し悪しを、様々な角度から切り取る人ごとではすまない作品がこころを揺さぶる。似た経験を持つ人も多くいるかと思われるが、わたしもそのひとり。何が正しくて何が間違っているかは、だれも解らない。最後は覚悟を決め結論を出すということになる。文化の違いなどが浮き彫りになり、考えさせられることも多いが最後は「家族って、素晴らしい」、そう思える暖か~い作品でした。
P.S. 音楽の使い方が巧みで、喜怒哀楽をメチャクチャ上手にカバーした演出力は見事。国は違っても、家族愛は普遍であると確信する映画となりました。お勧めの作品です。
※ある場面で日本の歌「竹田の子守歌」が、謳われます。複雑な気分で聴きましたが、妙に印象に残ってしまいました。妙という意味はあえて言いませんが・・・。