

2020.9.30
コロナ禍の自粛規制が緩和され、少しづつだか日常が取り戻され映画館に通う日が増えてきた。まだまだ油断出来ない状況だが、映画鑑賞はいまのわたしには何にもに替えがたい精神安定剤。観たくて観たくてしょうが無かった作品“ミッドナイトスワン”を観た。こころのど真ん中を直球で貫いたその作品は、生涯を通して忘れることの出来ない作品となりました。公式サイトのキャッチコピーに「世界で一番美しいラブストーリー」と謳われています。その意味が、見終わった後ジンワリと伝わる素晴らしい作品です。ひとりでも多くの人に観てもらいたい、近年一番観て感動した映画です。
作品は社会の片隅でひっそりと生きるひとりのトランスジェンダー・凪沙(なぎさ)と、母親のネグレクトに苦しみ自分の居場所が無い少女・一果が共に暮らしはじめるところから物語りは紡がれて行く。二人はそれぞれにこころに深い傷を持ち生きてきたマイノリティー。はじめはぎくしゃくしていた関係も、痛みを知る者通し雪が溶けていく行くように次第にお互いが掛け替えのない存在になっていく。
出演者の人たちがみな存在感を醸しだし、観客のこころにグイグイと迫ってくる。主演の二人は、言うまでも無く本当に素晴らしい演技で胸の内に秘めた悲しみが痛いほど伝わり苦しくなる。主人公の凪沙を演じた草薙剛は、もともと高い評価を得ている人だがこの作品ではその凄さをまじまじと感じさせてくれる。物語の至る所にリアルな表現が鏤められ、ここまでやるかと思わせる。渾身の演技でそれを表現する草薙くんのエネルギーは半端なく、観客の感性を刺激し身震いさせる。そして少女一果を演じた新人女優の服部樹咲ちゃんが、新人とは思えない堂々とした演技で観客のこころを掴んで離さない。凄い子が出てきたものだ!と率直に思う自分である。演技もさることながら、物語のコアになるバレエを踊るシーンは美しく暗いテーマの流れの中、ほっとさせてくれるオアシスのような表現となり深い印象を残します。全編を通じ多くのバレエシーンが出てくるが、どんどんと変わっていく美しさにしらずしらず思わず溜め息が漏れます。バレエのことは素人なので技術的なことは解りませんが、素人が観ても引き込まれてしまう内面から浮かび上がる儚く哀しい美しさは本物のような気がします。この子は俳優えなくても、バレイダンサーでもやっていけるそんな魅力を感じました。あどけない少女が少しずつ大人になっていく姿は、この物語の救いとなっています。
一果が唯一こころを開いた学友りん役をやった上野鈴華ちゃんも今後期待大の◯印ですが、その母親役を演じたサトエリこと佐藤江利子と、一果の母早織役をやった水川あさみの駄目母ぶりが強烈で二人のイメージが大分変わりました。それは良い意味で、彼女たちの俳優としての高さを知る機会となりました。キャストのみなさんの体当たりの演技は、言葉では表せないほど素晴らしいものだったと付け加えておきます。
P.S. こころに残る台詞が沢山ありましたが、とくに響いた言葉を記載します。「うつらみたいなんは、ずっとひとりで生きて行かなきゃいけんけぇ・・・」は、人権という深いテーマを思い知らされる言葉としてわたしの中に刻まれました。ピアノの旋律が印象深い音楽が物語にやさしく寄り添い、この作品により強い印象を与える演出は間違いなく今年度の傑作と言えるものにしていると思います。今回は恥ずかしい話し、号泣といったわらしです。