

今日紹介するお勧めの作品は、日本映画の小栗康平作品“泥の河”。一度、よもやまシネマ-350(2017/9・28)でご紹介した作品です。すでにその時熱く語っているのですが、語り尽くせない思いを少々上積みして、再度語りたいと思います。原作は1978年に刊行された宮本輝さんの小説で、氏はこの作品でデビューし「第13回太宰治賞」を受賞している。映画は1981年に公開されたもので、小栗監督にとっての記念すべき処女作となった。偶然とは言え二人には記念すべきデビュー作となっているのも、不思議な因縁かも知れない。小栗監督はあまり多く作品を世に出していない。何か拘りがあるのか、そこらは作品を観る度にいろいろと考えさせられる部分も多い。この“泥の河”は公開されるまでは、紆余曲折あったようである。拘りのせいなのか制作費がオーバーし借金をかかえてしまったことや、それを親交のある大林監督がいろいろと影で動いてくれやっと試写会にまでこぎ着けたことなどが逸話として残っています。偶然試写会で当時の東映の岡田社長の目にとまり、「良い映画だ!!」と買い取られ全国公開されたとの話。そしてその年「キネマ旬報ベスト・テン」のベスト・ワンとなりごく内外で高い評価を得、多くの賞を手にした。多くの賞を得たから良い作品であるのではなく、良い作品だから世に出たということは岡田社長の話でも裏付けられる。良いものは誰の目から見ても明らかである。
個人的に小栗監督の作品は好きだが、何と言っても“泥の河”はわたしには一番。6作品の中ではシンプルでとても客観視され、伝わる感情が表現されています。内容はもちろん、演技者たちの生き生きとした演技、そして時代を克明に蘇られた映像と演出のきめ細やかさ。すべてに感動です。前に一度気持ちを書いているので重複してしまうかも知れませんが、登場する人たちの演技が沁みます。物語は昭和30年の大阪が舞台で、わたしの子ども時代を主人公の子どもたちは重なる。そんな巡り合わせもあり、わたしのこころの中に深く刻まれたことは間違いない。人々が戦争の爪痕からようやく立ち上がり、懸命に生きているそんな姿に胸が震える。人と人との繋がりがとても深くそして暖かく哀しい。
主人公・信雄は裕福とは言えないが、河口の側で食堂をしている父母の愛情に包まれ暮らす少年。そこにある日、店の側に着岸した舟で暮らす兄弟と知り合うところから物語が進んでいく。ひと夏の出会いと別れがこの物語の軸となり、人生の中で生きること生きて行くこと難しさを教えてくれる。この少年がこの後、どういう人生を辿って生きていくのかがとても気になってしまうわたしである。信雄のお父さんやお母さんもそうであった様に、人は何かしらひとには語れない秘密(過ち)を背負って生きている。信雄にとってのこの体験はきっと生涯で消えることの無いものになった事だろう。自身を責めるこころが儚く、切なく、そして哀しい。でもこれだけは言える、きっと信雄はこの経験を糧にひとに寄り添える大人に成長するに違いない。両親がそうであるように・・・。
P.S. 三人の子役が本当に素晴らしいです。前年ながら三人ともその後俳優になったとは聞いていませんが・・・。ラストの岸から離れて行く舟を追いかけ走る信雄の姿と「きっちゃ~~ん、きっちゃ~~ん」と叫ぶ声は頭から離れず、思い浮かべるだけで号泣です。絶対に見て欲しい、日本を代表する作品の一本です。
※今回の画像は小説の表紙。