

今日紹介する作品は、2010年に公開された“わたしを離さないで”。2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の原作で、公開当時わたしは氏の作品とも知らずこの作品の中に描かれた世界に未来への不安を覚え衝撃を受けた。人間はいったい何を目指し未来に進んで行くのだろうと、深く考えさせられ数日その呪縛から抜け出すことが出来なかった。 “日の名残り”も映画化され観ましたが、二作が共通するのは共に登場人物たちが抱えた空しさが痛いくらいに描かれているところではないでしょうか?他の作品を読んでいないので、生意気なことは言えませんが氏の独特な世界観みたいなものを感じざるをえません。
さて、“わたしを離さないで”は10年前小劇場で鑑賞し見終わった後の、喪失感が忘れられないでいる。感動よりも衝撃といった表現があっているこころに刻まれた作品である。人間であることが嫌になってしまうくらい、大きなショックを受けました。
物語はイギリスのとある全寮制の寄宿学校が舞台。そこは下界から隔絶され、毎週のように健康診断が行われる多くの生徒たちが厳しい監視下の中くらしている。冒頭からなんか妙な違和感を感じるはじまりである。そこで暮らす三人の生徒(ひとりの男性と二人の女性)が、主人公で進んで行く物語は、青春映画さながら恋愛感情のつばぜり合いなどが絡むも、途中から予想だにしない展開へと変わっていく。三人と共に生活している仲間のひとりが、街に出かけたとき友人とまったく同じ顔をした人を見たという噂話が拡がる。そのあたりから物語は急展開し、とんでもない結末へと続いていく。近未来に起こるであろう(もしかしてもう現実かも?)感覚が見事に写し出され恐くなります。主人公たちの身に起こる現実に、胸が締め付けられ震えてしまう。神への冒涜とも言える所行に、人間の愚かさを思い知らされ打ちのめされる。いままでもこれからもきっと、こんな感覚を何度も感じる事だろう。そして考えさせられ悩み、それでも前に進んで行く現実。一寸でも無駄に過ごしては罰が当ります。そんなことを感じざるを得ない、こころに刻まれた一本です。
P.S. 主人公トミーをアンドリュー・ガーフィールドが演じ、宿命に絶望する繊細な感情を見事演じている。夜道に立ち慟哭を発し泣き叫ぶトミーの姿は、忘れることの出来ないワンシーンとなってしまった。彼はこの作品で数多くの賞に輝き、ハリウッドを代表する俳優となりました。二代目スパイダーマンが有名ですが、確かな演技力はどんな作品でも高く評価されています。ヒロインに話しを移しますが、物語の語り部、キャシー役のキャリー・マリガンもライバル、ルース役のキーラ・ナイトレイもそれぞれの役を見事に演じ、人生の儚さを表現し印象に残りました。キャリー・マリガンは“華麗なるギャッビー(リメイク版)”のデイジーという役で出ていましたが、とても身勝手な女を演じていてそのギャップに驚かされました。少々垂れ目な彼女ですが、とても魅力溢れる女優さんです。
最後にひとこと、「こんな過酷な人生(生まれたときから人生が決められている)、あなたは耐えられますか?」
※よもやまシネマ71/2011.4.11に掲載。