

いままでどれくらいの数の映画を観たのだろう?劇場で観たものはパンフを数えれば解る事なのだが、もはやそんなことは意味を持たない。全部を覚えている訳も無く、こころに刻まれている作品は意外と少ないもの。その時は感動しても、時間と共に記憶から消えていくものも多い。こころに残る作品は、観た時の年齢や感性が大きく左右する。適正年齢にピタッとはまると、言いようのない感動を覚えるのは確かなこと・・・。
そんなことで、今回選んだ作品は49年前に観た“おもいでの夏”(Summer of ’42)。映画作品にとって重要な役割を担っているのが、作品のテーマ曲(映画音楽)。もちろん作品が良質であることがまず第一なのだが・・・。不思議なことに名作と呼ばれる作品には、必ずと言っていいほど印象に強く残る映画音楽がついている。この2つはもはや一体として存在するもので、切っても切れない関係である。”おもいでの夏“の何とも言えない哀愁を帯びた曲は、物語にそっと寄り添いとても強い印象を残す傑作である。物語は1942年の夏、ニューイングランドのとある島でおきる思春期の少年のひと夏の経験を描いた作品になっている。観た当時、わたし17歳。まさに主人公と同世代の真っ只中。自分の思いと主人公(ハーミー)の感情が重なり、まるで自身の身の上におきているかのような錯覚さえ覚え、締め付けられるような胸の苦しさを味わったことが思い出される。大人への憧れや不安、自身の非力さに打ちのめされる思春期は切ないものである。甘酸っぱい経験は、戦争という現実を突きつけられ儚い別れへと続いて行く。とてもシンプルな話はナイーブな感情を、美しい避暑地の景色と音楽で演出され、忘れられない一作となりわたしの中に残った。歳を重ね改めて観ても、忘れかけていた感覚がきっと蘇るに違いない作品は紛れもない秀作です。ぜひ、ご覧あれ!
P.S. 主人公ハーミーを演じたゲーリー・グライムスの何とも言えない頼りなさと繊細さが、胸を締め付けます。ヒロインのドロシーを演じたジェニファー・オニールは息を飲むほど美しく、当時メロメロになった自分が懐かしい限りです。きっとドロシーその人に、恋をしていたのかも知れません。2年後、続編が同じキャストで創られましたが、第一作を超える事はありませんでした。時はあのときに止まったままで、2020年をむかえています。
ミッシェル・ルグランの曲はその年(第44回)アカデミー賞を受賞。映画史に残る名作となり、いまも多くのファンを虜にしています。
※おまけの話/主演の二人はこの作品で有名になりましたが、その後余り多くの作品には出ていません。それでも印象に残る演技力は本物で、ゲーリーが翌年に出演した“男の出発”という西部劇は一件の価値ありです。また、ジェニファーもビスコンティの遺作となった“イノセント(1976年)”に出演していて、美しさはそのまま存在感溢れる演技を披露しております。