

2020.2.14
501本目のスタートに選んだ作品は、本年度アカデミー賞で視覚効果賞など3部門を受賞した“1917/命をかけた伝令”。もちろん作品賞にもノミネートされた作品でしたが、結果は韓国映画“パラサイト”に軍配が上がりました。アカデミー賞初となる外国作品の受賞が、今話題となりロングラン上映となっています。わたしが一押しの作品“ジョジョ・ラビット”も残念ながら脚色賞にとどまりましたが、それぞれの部門受賞にこころから拍手を贈ります。
さて、“1917”ですが、前編ワンカットと銘打っての視覚効果に拘った戦争アクション映画。正直ワンカットというくくりの作品の意味が、解りずらかった私でしたが物語がはじまりすぐにその意味がわかりました。主人公に視線を合わせずーっと追いかけて続く撮影手法は、エッ!こんなことって出来るの?と思わせる。通常はいろんな視点に立ちあらゆる角度から撮影したものをカットで割っていき、つなぎ合わせて演出したものをまとめる。ところが今作は主人公をメインにレンズを向けづ~っと定点のままストーリーが続く。もちろんアングルや遠近の動きはあってのことで、まるで1台のカメラで撮影したかのように展開する技術に自分自身がその場にいるかのような、そんな臨場感と緊張感が途切れる事無く体感でき、とてつもなくリアルな感覚に至る。こんな気分になったことは記憶に無い・・・。もちろん1台のカメラだけ回しての撮影などあり得ないのだが、その道のクリエーター(VFX)たちの見事な技術でわたしたちを翻弄する。騙されているのだが、そうとは思わせないところが本当に凄いところである。嘘っぽさが本当に見当たらず、あまりのリアルさに鳥肌さえ立つ。戦場での孤独感や命と向き合う瞬間が見事に伝わり、一瞬たりとも気の抜けない戦争の怖さを体感することになる。たった1日の出来事が、こんなにも重たくのしかかる戦争とはなんと罪深い愚行なのだろう。戦争映画にまたひとつ、名を刻む映画が現われたと確信したわたし。
物語はこの作品の監督サム・メンデス(007 スカイフォール)が、祖父から聞いた体験談をもとに創り上げた渾身のワンカット作品(ワンカットに見える映像)の構築はただただ見事としか言い様がない。1917年の第1次世界大戦時に西部戦線での攻防のさなか、若い二人の兵士に下された重要任務の伝令。一刻をあらそうその伝令を持ち、戦場の真っ只中をひたすら前に進む兵士2名の運命やいかに・・・。
映像表現への拘りが半端なく、その飽くなき探究心で創られた映画はその枠を飛び出し観る者を戦争の真っ只中に放り出す。息を潜め目をこらしまるでその場にいるとしか思えない緊張感の連続が続き、ラストはまるで魂の抜け殻状態に至る。こんな言い方も変なのだが、シーンによっては恐怖感が頂点を超え、美しいとさえ感じてしまうところが多々ある。ランアーズ・ハイということばが適切ではないが、極限に追いこもれた人間の精神状態とはこう言う事なのか?と思わせる。500本目に観た“大脱走”の興奮冷めやらない内に鑑賞した同じ戦争を題材にした“1917”もまた、映画の持つ可能性を拡げたまさしくエンタメ作品かも知れません。
P.S. 主人公のひとりスコフィールド上等兵を演じたジョージ・マッケイ、そしてもうひとりブレイク上等兵を演じたディーン=チャールズ・チャップマン。二人の全身全霊で演じ上げた主人公の二人は戦争のもつ意味をまさに伝える見事なものでした。間違いなくこれから進んでいく俳優としてのキャリアに輝く、唯一無二の作品になる事だと思います。これからの二人にも注目です。今年のアカデミー賞は決まりましたが、候補にあがったどの作品も甲乙つけがたいものばかりで映画ファンを大いに楽しませています。全部とは言いませんが、ひとつくらい観ても損はないと思います。今すぐ、劇場に直行しましょう。