

2019.12.26
年末も押し迫り、いよいよ後1週間で令和元年が終わる。残された時間を有意義に使うには、やっぱり映画。そこで今回選んだ作品は”テッド・バンディ“。実在の犯罪者を主人公に描かれた作品は、決して楽しいとは言えないもの。多少の脚色もあるとは思うが、エンドロールで流れた実際に行われた裁判シーンを見る限り、そのまま現実に行われたものと寸分のくるいもない。サスペンスやスリラー的要素が含まれてはいるが、アメリカで起きた実話に基づいた史上最強の連続殺人の物語。ただ見終わるとこれが現実なら、サスペンスなどと言った甘いくくりは飛んでしまう。どのジャンルにも収まらない、そんな匂いを醸し出す不思議な感覚の作品に出会うことになる。
主人公のデッド・バンディは、アメリカのみならず世界を震撼させた凶悪な殺人鬼。死刑確定後に自白した殺人の数は30名を超え、いまでもその数は不明で50名は超えていると司法は確信していたと記録されている。その猟奇的な殺し方はあまりにも残忍かつ巧妙で、いつしか彼をメディアは「シリアル・キラー」と呼ぶようになったが、いまだに謎も多く本当の被害者の数は誰も知らない。
監督はドキュメンタリー出身のジョー・バリンジャー氏でエミー賞を2度獲得する名匠である。その名をはじめて知ったわたしだが、今作を観てそのリアルな演出と巧みな心理描写に翻弄されテッド・バンディが本当に有罪だったのか???と彼を愛した主人公のリズ同様、頭を抱えてしまう。この作品を観て一番強く感じたのは、日本でもはじまっている裁判員制度の有無に考えが及んでしまったこと。人が人を裁くということに対する抵抗感と葛藤が渦巻き、自身判断が恐くなる。もし冤罪っであったら???という気持ちがすこしでもあったら、どれだけ苦しみを抱える事だろう。あるTVで実際に裁判員に選ばれたひとが、その経験の重さを語っていたのを偶然観たことがある。その重さは言葉では表現できないほどと、その人は語っていました。もし自分ならと考えるだけでもこころが重たくなる。まさにそこに自分がいるような気にさえなるのが映画”テッド・バンディ“なのである。観れば考えさせられる事間違いなしの作品になっています。こんな映画もたまには必要なのかも知れません。犯罪史上最悪の殺人者を描いた作品のわりに、おぞましいシーンはほとんど出てきません。そこがこの作品の緻密な計算で、最後の最後まで本当の真実が見えて来ません。リズのこの経験を書いた作品(本)がベースになっている今作は、彼女の抱えた「信じたい」と思う気持ちが観客に乗り移り悩ませる映画です。いっしょに悩むこと、あなたは出来ますか?
P.S. 実在のテッド・バンディはIQ160の頭脳と美しい容姿を兼ね備え、司法を手玉に取るほどの人物。それだけにこの猟奇的殺人とのギャップに、世界は震撼し彼は伝説になりました。
※主人公テッドを演じたザック・エフロンを観たのは”グレーティスト・ショーマン“以来だが、見事のひとことです。そしてヒロイン・リズを演じたリリー・コリンズのリアルな演技も忘れられません。本当に素晴らしい演技でこころを引かれまたまたファンになってしまいました。脇を固めたジョン・マルコビッチの存在感はやはりさすが、そして驚いたのはリズを支える同僚ジェリー役を演じたハーレイ・ジョエル・オスメント(シックス・センス)の変りよう。あの可愛かった・・・もうビックリ仰天のひとこと。それでもやはり演技力はさすがで、観た瞬間!あれ?もしかしてっと気がつきました。ちょっと嬉しかったのは事実です。