2019.11.29
スティーヴン・キングの名作“シャイニング”と言えば、知らない映画ファンはいない。原作者であるスティーヴン・キングはこの作品が映画化されたことでその名を世界に知らしめ、その後も多くに作品が映画化される人気作家となった。そしてこの作品を映画化したのが、こちらも映画監督として名声を不動のものにしたスタンリー・キューブリック。余談ですが、実は“世界的大ヒットとなり評価も高いモダンホラー映画の金字塔と呼ばれるこの作品を、キング自身は酷評している。理由はキューブリックが原作の発想こそコンセプトに沿っているが、中身はまるで別物になってしまっていること。ホテル自身が持つ邪悪な意志の存在がメインの原作が登場人物にスポットが強く当ってしまったこと、そしてラスト演出にいたるまで、キューブリックがまるで別物に脚色してしまったことにキングが立腹したと言うのが事実。当時キング氏はかり批判を繰り返し二人は険悪な状態が続いたと聞く。映画が大ヒットしたのと、キング氏が再ドラマ化をするのを条件に、取りあえず一件落着したようである。その後もいろいろあるのだが、この話は取りあえずここでやめましょう。
個人的にキングもキューブリック大好きなので、どちらの肩ももてません。共にある意味天才だからこその葛藤があるのだと感じます。
さて、本題の“ドクター・スリープ”の感想です。映画史に燦然と輝く金字塔を題材に、その40年後を描いた今作。まずはそれに挑戦したマイク・フラナガン氏に敬意を表します。今作では監督はもちろん脚本、編集と独自の感性でキングの作品を描いてみせました。もちろん場面の至る所で前作“シャイニング”に対するオマージュが入れられキューブリック監督へのリスペクトが感じられます。わたしの感想だが、前作との繋がりこそあるが作品自体はこの1編で充分完成し、別物といっても過言では無い。それに今作も前作のベースに繋がってはいるのだが、新しい登場人物や前作とは違うカルト的集団の登場でかなり具体的な展開へとテーマが変っている。主人公は前作で生き残った少年ダニー(ユアン・マクレガー)の40年後に時代が移り、新たな展開に連続こども失踪事件が絡み、ダニーの隠された能力(シャイニング)が再び目覚めるところから時が動き始める。そして同じ能力を持つ少女アブラや、40年前に登場したハロランが彼の前に現れ、物語は新たな戦いへと幕が切って落される。これだけ説明しても解るように現実的な色合いが強く、“シャイニング”のような理屈では解決できない不思議な感覚が残ることはない。あの説明ができない何とも言えない衝撃と、モヤモヤして感覚はこの作品には感じられないのが前作との大きなちがいである。だからと言ってこれはこれで中々面白い作品として完成しています。“シャイニング”と比べる必要もないし、無理に繫げる必要もありません。単独で鑑賞するに充分なエンタメ作品となっていますので、ご安心を・・・。
見終わって感じた事と言えば、キューブリック監督の類い希な発想力と理解を超えた感性の凄さを、あらためて認識しました。そしてキング氏のクリエイティブな発想にも・・・。
P.S. キューブリック監督が亡くなり、キング氏の“シャイニング”に対するバッシングはまたはじまったと聞いています。天才同士のこじれた関係は、結局墓まで持ち越されるようです。プライドの問題は解りますが、とても残念です。