

2019.9.27
三谷幸喜監督の新作 “記憶にございません”を鑑賞した。監督は新作を発表する度、番宣のためやたらとTVに出まくる。この間たまたま目にしたNHKに、正規の出演なのか解らないような登場のしかたし、今回の映画をしっかりと宣伝していました。ず~ずぅしいのか、シャイなのかよく解らない性格の変なおじさんですが、妙に人を引きつけるエナジーを発しています。その宣伝にマンマと乗り(もともと観たかった)、劇場に足を運んだわたし。
今回は日本の首相をネタにした、笑い満載のヒューマン喜劇に仕上げ、観客を多いに楽しませてくれます。いままでも楽しい作品を提供してくれている三谷監督だが、今回は現政権への皮肉を込めた演出が見え隠れし笑えます。過去に流行語にもなったフレーズ“記憶にございません”という言葉が再び蘇り、あらためてインパクトの強さを思い出させてくれます。そして中身では昨年流行語にもなった「忖度」が満載。癖の強い政治家にスポットを当てたのは、さすが三谷監督の鋭い視点。考えてみればつまらないTV番組を観ているより、芝居がかった国会中継を観ている方が狐や狸がいっぱい出ていて面白い。そこには人間ドラマが溢れ、議論する議員さんたちの私生活を想像するだけで何だか能を刺激します。きっとそんなところに目をつけ、面白おかしくブラックなユーモアで日本を見直す機会を創ったのかも知れません。それでも三谷監督の作品には決して悪意に満ちた表現などなく、愛のある皮肉を込めた叱咤激励のメッセージが隠れていることをファンは解っています。久しぶりに笑いをこらえて涙してしまいました。腹を抱えて笑うのが一番ですが、今作はクスクスだったり、ほくそ笑んだりと半ば拷問のような笑いの連射攻撃。三谷監督のユーモアのセンスにあらためて感動を覚えます。
物語は病院の一室で目覚める、日本の総理大臣(中井貴一)の姿からはじまる。自分がだれで、何故そこにいるのかさえ解らない。実は演説中に市民から投げられた石を頭に受け、記憶障害(記憶喪失)に至ったという設定である。そこから理由を紐解きながらの展開で人物像をあぶり出し、あっという間に物語の中へ引っ張り込まれる。まるでオレオレ詐欺のような巧みな話術と進行に気がつくとハマッテいる。ラストはチョとほろっとさせ、これが三谷幸喜だ!!と言わんばかりのおわりでした。久しぶりに思う存分笑って涙しました。
さて、ここで語らなければいけないのが役を務めた俳優さんたちの演技である。総理を演じた中井貴一は真面目さが滲み出ていて、そこがたまらなく面白い。本当にうまい俳優さんとは、この人のことだろう。それ以外の俳優さんたち(佐藤浩市・ディーン・フジオカ・石田ゆり子・草刈正雄・小池栄子・斉藤由貴・木村佳乃・吉田羊)も、それぞれが癖のある役に挑み俳優さんたちの凄さをあらためて感じました。みなさんが役を楽しみながらこなしているようで、観ている方も小気味良く愉快になります。善悪の色分けはしていますが、終わってみれば憎めないキャラばかり・・・。そのあたりが三谷作品の醍醐味なのでしょう。女優陣たちのオーバーアクショントークは、彼女たちの違う一面を見られ新たな可能性を感じる機会になれました。
P.S. 元小学校の教師役で山口崇さんが、出ていたのですが最後のエンドロールが流れるまで解りませんでした。お年を召されましたが、存在感抜群で名優の片鱗をしっかりと魅せてくれ懐かしさと嬉しさでいっぱいになりました。もう一人元NHKアナの有働由美子さんが、まるで違うケバいイケイケキャラのアナウンサー役ででていました。この登場もはじめ全然解りませんでした。NHKの呪縛を三谷さんが完全にぶち壊してしまいました。思いっきり笑えます!!!