

2019.9.23
太宰治の代表作“人間失格”。その作品を蜷川実花監督が映画化し公開された。小説を題材にしたのではなく、3人の女性との関わりから人間太宰に焦点を当てた作品となっている。太宰と言えば“人間失格”を地で行くような乱れた生活が有名で、自殺未遂や薬物中毒など常に新聞紙面をにぎわせた昭和を代表する作家のひとり。残した作品は、そんな乱れた生活の中から、実体験として生まれたと言えるものばかり。堕落した人間の姿の中に、真実があると言わんばかりの作風に引かれるファンはいまも多い。だがその逆もまたあり、苦手なひとも多いようだ。世の中は陰と陽で形成されるが、彼は陰の代表格である。奔放な生きざまには決してまねの出来る生き方ではない危うさがあり、そんなところがきっとひとのこころを引きつけるのだろう。映画“人間失格”では、男という生き物の失格ぶりを紐解き人間太宰の姿に近づこうとしている。
ほんの少し前に“Diner”を発表し、彼女の作品に触れたばかり。カメラマンとして出発し高い評価を得て、現在は映画監督としても活躍の場を拡げている実花氏。独特な美的感覚は父親(故・蜷川幸雄)譲りと言われるようだが、本人はまったく意識していないようである。そんな彼女のおおらかさは、とても魅力的でありひとを引きつける力で溢れている。父親の影響がまったく無いとは言えないが、しっかりと自身の世界観をもっているクリエーターである。特に色への拘りはどの作品にも、色濃く現れとても印象的な世界を演出してくれます。
前作“Diner”比べると、今作はやや控えめだがミカ・ワールドは健在。物語の節目節目で、見事に色を巧みに使い象徴的なシーンを創り上げている。彼女にとっては太宰治という人物が、モチーフとしては溜まらない人物だったに違いない。そんな感情が画面から溢れ、3人の女たちにそれらを表現させているようにさえ見えてくる。この映画は女性目線で描かれているところが、太宰治という人間の魅力を引き出している。どおしてこんなに駄目な男に、女は惹かれるのだろうか?劇中で太宰の妻・美知子を演じた宮沢りえの台詞がこころに残った。「戻らなくてもいいですよ、家庭に」こんな言葉を言わせてしまうのは、太宰が唯一無二の人間だからに他ならない。後の言葉がまた凄い「あなたはもっとすごい作品を書ける」なんて・・・。ほかの2人もそうだが、太宰の才能を信じているからに違いない無償の愛がそこにあるのだろう。人間はつくづくやっかいな生き物だと、作品を通して感じる事ができる。男と女。理屈では解らない感情がこの作品溢れ、そんな人間臭さがあらためて太宰治の凄さに繋がった。人間ギリギリのところまで落ちてこそ、本物を生み出すことができるのかも知れません。もちろん才能あってのことだとは思いますが・・・。
P.S. 宮沢りえの演技には凄みさえ感じましたが、愛人役2人を演じた沢尻エリカと二階堂ふみもそれぞれにおんなの愛(解るようで解らない)を見事に演じ素晴らしかったです。どの女性も違った意味で怖さを感じたのは、わたしだけでしょうか?太宰を演じた小栗旬さんも良かったです。この役は本当に大変だったろうと察します。お疲れさまでした。