

2019.9.12
幅広い作風で観客を魅了しかつ、中国を代表する巨匠チャン・イーモウ監督が放つ、最新作“SYADOW”を鑑賞した。物語は三国志を下地に、ひとりの影武者として生きる青年の波瀾万丈の人生を描いている。今までも創ってきた武侠映画だが、今回は新たな映像美で今までとはまた違った創造豊かな作品を提供してくれています。過去に手がけた武術テーマの作品”HERO””LOVERS”は、武術の妙味に付け加え、美術の芸術性を融合した今までに無いエンタメ作品として観客を魅了してきた・・・。今回は打って変わり、全体を光と影のモノトーンで描く事により、武道の神秘性をより強調した演出が施され武道オタクのわたしには、溜まらないものとなりました。「陰と陽」というテーマを人間に中にある欲と重ね、重厚感のある映像美術で随所に見所を創り楽しませてくれる。今回一番目を引いた演出は、傘を武器に変えての戦闘シーンの迫力に目が釘付けになったこと。また陰陽のシンボルを背景にした、都督と影武者(ダン・チャオ2役)によるバトルシーンは、スローモーション映像により臨場感が増し、まるで水墨画を観ているような感覚を覚えました。奇抜な発想は、イーモウ監督の中にある自由な想像力とスケールの大きな表現力にあるに違いありません。奇想天外な武器は武術の持つ神秘性をさらに拡げ、ある意味ファンタジーを生み出しています。ゲーム世代の子供たちを意識した演出に違いないが、時代の流れを意識した監督の柔らかい頭に関心させられる。創る事をめいっぱい楽しんでいる、そんな監督の意識がわたしには見て取れます。遊び心満載のうえ、しっかりと芸術性を表現するところはしたたかで、やはりそのあたりが名匠というところなのかも知れない。前作“グレートウォール”では、ちょっとやり過ぎ感があったのだが、今回は一転しとても品格のある重厚な武術映画になっています。もちろん“グレートウォール”も、演出効果は印象深く、隊に分けて色分けした甲冑やその奇抜な戦い方は観客を大いに楽しませてくれたことは間違いない。中国の伝統文化をしっかりとバックボーンに置いていればこその、豊かな芸術性を加味できるのだろう。「陰と陽」の世界感は武道の中では、定番中の定番。表裏一体にも繋がり、そのテーマは永遠である。紅三部作として知られている、“紅いコーリャン”“紅夢”“上海ルージュ”では赤を基調とした色彩演出で独特の世界を創りだし、また一方では時代の重さをリアリティで徹底して描いた“秋菊の物語”そして“活きる”など、その才能には限りがありません。また幸せ三部作と謳われている“あの子を探して”“幸せの来た道”“至福のとき”も忘れてはならない名作である。わたしは、チャン・ツイィーを世に送り出した“初恋の来た道”が中でも一番好きである。地味なテーマだが、叙情豊かに四季の移り変わりを背景に描いた温かく優しいこころの作品が大好きです。
※イーモウ監督は2008年北京オリンピックの開会式及び閉会式の総合演出を行ったことは有名。だがその後、さまざまなフェイク問題が浮き彫りになり、ちがった形でも有名になってしまいました。2022に開催される再びの北京ですが、個人的には映画に専念してくれると嬉しいのですが・・・。
P.S. ヒロイン・シャオアイを演じたスン・リーは、東洋人特有の優雅さと美しさを醸し出す女優さんで印象に残りました。わたしだけかも知れませんが、大塚寧々さんの若い頃に似ていてそればかりが気になってしまいました。みなさんはどう思いますか?