2019.8.29.
久しぶりに日比谷まで足を運んだ。何の情報も入れず、Netで拾った題名に引かれ出むいたわたし。観たい作品が尽きてくると、たまに当てずっぽで映画を観る事がある。今回もその一例だが、主演のジェームズ・マカヴォイの名が目に入ったのも要因のひとつ。“ミスター・ガラス”“スプリット”で多重人格の役を見事に演じ強烈なインパクトを残した彼。“X-MEN”シリーズのチャールズ役が代表的だが、わたしはシャマラン監督の、このキャラにゾッコンである。かなり個性的な俳優さんだが、観る度に強い存在感を感じひかれる俳優さんのひとり。そんな彼の名に引かれ“世界の涯ての鼓動”を鑑賞。タイトルぼ名にふさわしい不思議な世界感に包まれた作品で、2つの物語が同時に写し出されているような感覚でまるで蜃気楼を観ているよう・・・。まったく別次元の人生が重なり合い、あり得ないような状況とあり得ない物語が紡ぎ出される。見終わった後の余韻に、しばらくは地に足がつかない。後に知ったのが、この作品の監督がヴェム・ヴェンダースという事実。そうだと知ると、なるほどと大納得。ヴェンダース監督と言えば、ドイツ出身の名匠で、“パリ・テキサス”“ベルリン・天使の詩”などインパクトの強い傑作を世に送り出しているひと。ドキュメンタリー作品の“ピナ・バウシュ踊り続けるいのち”もクリエーターがクリエーターを撮るとこんな風になるのだという見本のような芸術性豊かな作品で感動したことを思い出す。彼の作品を全部見ているわけではないが、独特の世界感は他の監督とは違った夢見心地を味わえる。今作品も終わってみれば、間違いなくヴェンダースとうなずける。2017年の作品なのに、マカヴォイ出演の「X-men」「ミスター・ガラス」の方が後に創られたのだが先に公開されている。映画興行の目に見えない操作があるようだが、どちらにしてもこの作品“世界の涯ての鼓動”は観る事ができて幸せです。ひと言で作品を言い表すなら「人間の根源を探るひとと、人間の尊厳を守るひと」のサスペンス恋愛映画とても言った作品です。こんな出会いは絶対無いだろうという、まったく違う環境の中で暮らす男女が出会い恋に落ちる。あり得ないとは思っていても、そこがヴェンダース監督の凄さで、巧みな演出と映像に知らず知らず引き込まれてしまう。評論家からはかなり手厳しい評価を受けているようだが、監督でしか描けない作品である事は観れば解ります。この作品が最高とは言えませんが、監督らしさを充分味わえるそんな作品です。
P.S. ヒロイン・ダニー役を演じたアリシア・ヴィキャンデルが強い信念を持つ生物数学者を好演している。地味な俳優さんだが、“リリーのすべて”でみせた実力は本物だと確信する出来映えである。不思議な世界感を写し出す背景に選ばれた、ノルマンディーの海の景色が美しく印象深い。特にシンボルとなっていたのが、浜辺に突き刺さった第2次大戦の爪痕であるドイツ軍の掩体壕の残骸。まるで“猿の惑星”の自由の女神のようで、世界の終焉をイメージしたののはわたしだけでしょうか?もの悲しくもインパクトのある画像は、タイトルをまさに象徴したロケ地の選択で一度行ってみたい気になりました。