2019.8.16
いきなりの話しですが、有楽町スバル座が今年の10月で、半世紀の歴史に幕を下ろすとのこと。1996年(昭和41年)に開館した老舗が、またひとつ消える事に・・・。映画が人々にとって一番の娯楽だった時代に、デートするなら有楽町で映画というのが当時のステータス。わたしも随分お世話になりました。(デートの記憶はほとんど無いが?)
そんなスバル座に足を運んだ。2年ほど前に“花筐”(大林宣彦)を、観に来て以来になる。有楽町駅前にある劇場は、そんなに大きくはないが他のロードショー公開館とも違う独特の雰囲気をもつ場所。後2ヶ月と迫った閉館前に、最後の洋画公開に選ばれた作品が“マイ・エンジェル”である。夏休みに観たい作品をほとんど観ていたため、インターネットで映画を検索していたらマリオン・コティヤールの名が目に飛び込んだ。好きな女優さんのひとりで、どんな作品に出ても存在感抜群の演技で魅了する彼女。エキゾチックなキリッとした顔立ちが印象的な美しいひとある。目力が強く意思の強さがひしひしと伝わる女優さんで、そんな彼女が主演の映画に興味をそそられない訳がない。猛暑の中、意を決して(ちょっと大袈裟???)有楽町へ・・・。観客はまばらだったが、いかにも映画が大好きといった感じの中高年たちが鑑賞に来ていました。早速いつも通りパンフと売り場へ行くと、どういう訳か制作してなく売っていない。流石のわたしもちょっとビックリ!?何で???である。パンフを記念に買うのもわたしの楽しみのひとつ。「嘘っぉ~~~」って、感じでショック大である。ちょっと気分を壊された感じで映画を鑑賞。そんなモヤモヤした気分で映画に臨ませた映画関係者には説明責任義務があると思います。せっかく良い映画を観たら、余韻を楽しむのに不可欠なのがパンフ(プログラム)の存在。こんなこと今までに経験したことありません。閉館まであとわずかなのに・・・。
さて、映画“マイ・エンジェル”ですが良かったです。モヤモヤを引きずったため、すんなりと内容に浸るまで時間が掛かってしまったが良い映画でした。マリオン・コティヤールの演じたダメダメな母マルレーヌと、母親を誰よりも愛してやまない娘エリーの理屈では語れない親子の絆がテーマになっている。いきなりの性描写にちょっと驚かされるが、この物語の本質人間の中にある不可解な行動と理屈では処理できないエゴの意味が描かれている。ここまで奔放に行動する人間は、現代では社会不適合者と見なされる。あえてこのわがままな生き方を描くことで、問題提議をした監督に緻密な才能を感じたわたし。今回初監督となるヴァネッサ・フィロは女性監督で写真家やミュージシャンとしても活躍するひと。今作品はその彼女の才能が至る所に出ていて、まず画像の美しさに引き込まれる。また心理描写の繊細さは、女性ならではの感性が感じられ深くこころに残る。娘エリーを演じたエリーヌ・アクソイ=エタックスの演技力は驚愕である。この先どんな女優人生を送るのか、この先創造もつかない。子どもがメインの映画を観る度、演技力の高さに驚くことが多い。どんな名俳優さんたちも、子どもが相手では最高の演技をもってしても喰われてしまう。そんな典型的な作品ではないでしょうか?「親子の絆」なんて、簡単に語れないほど複雑なこころの動きが描かれ考えさせられる。劇中エリーが発する言葉
「ママがいなくなった子供はゴミ箱行き」の台詞は胸に突き刺さる。7月に観た“存在のない子供たち”、昨年観た“フロリダ・プロジェクト”。後者は今作品との共通点が多いが、いずれにしても親の責任と子どもの権利を思い知らされる良い作品でした。
P.S. エリーノ寄り添う孤高の青年フリオヲ演じた、アルバン・ルノワール主演の2人にも負けない存在感で、とても好印象を持ちました。これから期待大の俳優さんです。誰もが憧れるリゾート地として有名な南仏コート・ダジュールの美しい街。そんな場所にも生きる事の難しい人々が暮らし、社会の表裏が皮肉な感じに映し出されていて現実を思い知らされた作品でした。