

2019.3.15
御年88歳になるイーストウッド監督・主演の最新作”運び屋“を鑑賞。平日の午後一なら空いていると思いきや、劇場内は中高年の男女で中々の盛況ぶり。イーストウッド監督の人気がしっかりと伝わってくる。ここのところ監督業がメインの作品が多く、ファンはちょこっと寂しい思いをしていたところ・・・。そんなものを感じ取ってくれたのか、久しぶりの主演である。もちろん監督兼の2足の草鞋。その内面からわき上がる創作意欲の強さに、本物の凄さと若さを感じる。中高年に取っては、ヒーローを超えた神の存在である。2008年制作の”グラン・トリノ”以来となる主演だが、当時「自分が主演できる役はもう見当たらない」と実質の引退宣言とも言える言葉を発していた監督。確かに老人をメインに描く作品を創りあげるのは、相当な覚悟と忍耐が必要である。そんな監督のこころを突き動かした今作の物語は、とある新聞に載っていた90歳の運び屋(麻薬)の逮捕の記事。強くひかれる内容に自ら監督・主演を決めたとのこと。常に社会に対してアンテナを張り巡らせ、好奇心旺盛のクリエーターのこころに火がついたに違いない。88歳にしてこのバイタリティは、本当に凄いと思う。
さて、感想です。やっぱりこの人はただ者ではないと、あらためて再認識させられました。熟年の凄さというか、きっと監督でしか創ることの出来ない世界がここに描き出されていて、しみじみとこころに響く人生観が浮かび上がってきた。正直いってわたしには、ちょっと辛い作品である。わたしには年齢もまだまだ遠いし、経験にも大きな差がある主人公アール。だが、この作品を観てこの男の生き方に自分と重ね合わせるひとも多いはず・・・。この物語ほど派手な出来事はないにしろ、生き方が「解る解る」とつい頷いてしまう。男って幾つになっても奔放って言うか、言い方を変えると無邪気で子どもなのである。そして解っていても自分に正直に動いてしまう生きものなのである。そんなところが随所にみられ、反省しきりの話しが最後まで続く。個人的意見だが、後悔のない人生なんて絶対にあり得ないとわたしは思っている。失敗しても失敗しても、また同じように過ちを犯してしまう。どこでそれに気づき、我に返るかが大切だと言うことである。90歳にしてやっと気づいた主人公のアールだが、それが解った彼はまだ幸せなのかも知れない。そう思いたい自分がいます。ある意味羨ましい人生の過ごし方にも思える反面、こころの隙間に気がついた時の寂しさは無限なのだろう。それが歳を取るということなのかも知れない。わたしも後悔ばかりの人生だが、生きてきたからには少しでもひとの役にたつような、そんなことをして人生を締めくくりたいものだ。渋い作品だが、間違いなく秀作の“運び屋”でした。
P.S. 実際の娘さんアリソンが娘役をしていましたが、きっと実生活と重なったところもあったのではないでしょうか?脇を固めていた、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、ダイアン・ウィースト、みなさん流石の演技でしっかりと脇を固めていました。麻薬王役で出ていたアンディ・ガルシア(ブラック・レイン)の貫禄には正直ビックリしました。でも久しぶりに会えて嬉しかったです。
※この物語は実話が元に創られたものですが、ラストの裁判シーンで自ら有罪と言った主人公は、犯した罪の深さより自由奔放な生き方に判決を下し、人生に決着をつけました。みなさんは、どんな人生の決着をお望みでしょうか?ちょっと考えてみるのも良いかも知れません・・・。