

2019.3.11
今年度アカデミー賞作品賞を、並みいる強豪を抑え獲得した“グリーンブック”を鑑賞。近年黒人を主人公にした作品が、数々の名作を創っています。人種差別が蔓延していた時代を思うと、随分と穏やかな時代になったと肌で感じることができる現代。思えば少年時代、TVで観たオリンピック100メートル短距離走でアメリカが1・2・3位を独占したことに衝撃を受けたわたし。覚えているのは3選手はすべてが黒人で、表彰式の国旗敬章時国旗を観ることなく下を向き、2人が右手を高だかく突き上げていたシーン。優勝の衝撃よりこちらの行動にいったい何が起きているんだ?と感じたことが思い出される。子どもなりに「アメリカが勝ったのではなく、わたしたちが勝ったのだ!」と叫ぶこころの声がっ聞き取れました。それから時は経ち、オバマさんがアメリカの大統領になる時代をだれが創造しただろう。人権尊重の波が差別という偏見を押し流し、互いを認め合う平和で豊かな時代を創りあげました。と言いたいのだが、現実はまだまだそう甘くない・・・と喚起を促すような作品が、今回観た”グリーンブック“で見て取れました。
さて本題に・・・。感想はアカデミー賞に輝いたからではなく、ぜひみなさんに観てもらいたいとこころから思える作品です。時代背景が現在ではなく、もっとも差別が強い時代のアメリカが舞台のこの映画。物語は自らの尊厳を求め孤独と戦う黒人天才ピアニストと、ひょんなことでその人物の用心棒兼運転手として雇われた男のアメリカ縦断南部ツアー旅のお話。内容は濃いのだが、重いテーマをユーモアを交えさらっと流す演出の妙味に、いつしか身も心もゆだねてしまう。はじめに述べましたが、人種(黒人)問題をテーマにした作品は多く名作揃いのアメリカ映画界。直球で描かれた作品の多い中、今回の作品は実に見事に心を打つ。まったく違う性格と生活の二人が、人種の壁を乗り越え互いに必要不可欠な関係を築き上げるまでの物語は最高です。間違いなく名作と呼べる作品に仕上がっています。
この作品で作品賞の他、脚本賞と助演男優賞を獲得。天才ピアニスト/ドン・シャーリーを演じたマハーシャラ・アリは”ムーンライト“に続き2度目の助演男優賞に輝いた圧巻の演技。雨の中でトニーに向かい、こころの内に秘めた思いをぶつける慟哭は涙を誘う。決してハンサムではないが、印象に残る目が意思の強さを感じさせる演技派の男優さんでこれからもきっと注目の人物に違いない。”ムーンライト“も凄く良く、助演男優賞という立ち位置での受賞は本物の演技者といえる俳優の称号ではないでしょうか?この前観た”アリータ“にも出ていました、悪人の役でしたが・・・。もうひとり忘れてならないのが、主人公トニー・”リップ”・バレロンガを演じたヴィゴ・モーテセン。主演男優賞こそ逃しましたが、素晴らしい演技で、がさつで品はないがどこか憎めない運転手を演じていた。聞けばこの役づくりのため20㎏増量したらしい。つくづく俳優さんって凄いと思います。”ロード・オブ・ザ・リング“に出ていた???と聞き、2度ビックリ!でも経歴を見ると候補も含め賞の常連。やはりただ者ではないようです。中身も素晴らしいがこの二人の演技バトルを見るだけでも充分価値のある映画だと思うので、ぜひ劇場へ・・・。
※グリーンブックとは、アメリカ国内で黒人が泊まれるホテルやその他使える飲食店などのガイドブックのこと。根強い偏見の象徴と言えるツールであるが、今は存在しない。