
●Switch音-14 CHET BAKERジャズファンなら、誰もが知っているチェット・ベーカーの名。亡くなってから早いもので、もう31年の歳月が流れました。1950年代半ばジャズ界で時代の窮児と目され、当時マイルス・デイヴィスをも凌ぐ人気を誇っていたトランペット奏者の彼。ヴォーカルでも定評を誇り、中性的なその歌声は一度耳にすると病みつきになる。今日紹介するお宝は、彼がはじめて日本に来日し公演を行った時に取得した記念パンフ。1986年3月、場所は渋谷パルコ劇場。その時のピンスポットでステージに浮かび上がる彼の姿と、哀愁に満ちたペットの音色と声が目を閉じると鮮明に脳裏に浮かび上がる。彼は来日から2年後、公演先のアムステルダムで、ホテルの窓から転落し帰らぬ人となりました。いまも多くの謎が残り、その原因は解っていない。コンサートで彼の音に触れ、魂を揺さぶられたことをいまも時折思い出す。そして独特な歌声はこころに沁み、自身の中の何かにリンクした瞬間涙を誘う。知らず知らずこみ上げてくるものに身をまかせ過ごす夜は格別で、歳を重ねることと彼に出会えた喜びにいまも浸る事が出来る。58歳という若さでの終焉は、わたしに深い喪失感を刻んだが、こころの中にいまもそしてこれからも永遠に生き続けていくことでしょう。

P.S. 白人だと言うだけで大衆の人気を得たとする状況を、マイルス・デイヴィスは快く思っていなかったようである。だが、演奏や人間性はマイルスにも高く評価され仲が良かったと言われています。才能ある人は、人を見抜く目も一流なのでしょう。