

2019.1.29
久しぶりに“午前十時の映画祭”にやってきました。鑑賞したのは2017年にノーベル文学賞を授賞したカズオ・イシグロの同名小説を映画化した“日の名残り”。1994年、第66回アカデミー賞・8部門ノミネート。(他のノミネート作品、ピアノ・レッスン・シンドラーのリストetc.)25年前に公開された作品は、重厚感のあるきめ細やかな作品で何とも言えないじわぁ~っと胸に沁みて来る物語でした。
映画は、主人公スティーブンスが自動車旅行をしている1958年の「現在」の6日間と、旅をしながら回想する1920年から1930年代にかけての「過去」の回想シーンによって構成されています。そこは小説も映画も一緒。
ただし、主要登場人物の一部と、物語の冒頭と結末が全く違う内容になっているとのこと。ノーベル賞作品をそこまで変えちゃうって、勇気があると思うのはちょっと早合点。映画は小説が出版された4年後の1993年で、ノーベル賞を取る24年も前の事。それだけでなく内容も結構ブラックな表現が多く、色んな意味原作のままの表現は難しかったらしいです。原作読んで観るのも、面白いかも知れません。
物語は第一次世界大戦後のイギリス、オックスフォードダーリントン・ホールで働く老執事のスティーヴンスの回想で始まる。英国貴族のダーリントン卿に使える優秀な執事長スティーブ(アンソニー・ホプキンス)、そして女中頭(ミス・ケルトンエマ・トンプソン)がホールで開かれる国際的集まりの中でプロとしての仕事に従事する生活を映し出す。
まず名優2人の演技力に圧倒される、134分間の作品と言っておこう。地味な話に思えるが、原作を調べると意外な裏話もあり興味は尽きない。映画はかなり手を加え脚色しているらしいが、それでも原作のもつ品格はしっかりと保ち名作と謳われています。戦争というテーマを角度を変え考えさせる演出は見事で、戦争が人生に大きく関わり影響した時代の問題が詰まった作品でした。いまもある偏見や差別が、物語の中で強く表現されています。当時の時代背景を考えれば、当たり前なのかも知れませんが、みなひとや国を憎むことで、生きる活力を見出していたのかも知れない。それは決して正しいことではないことは解っていても・・・。
主人公のスティーブは完璧とも言えるその道のプロ。信頼も厚く人望もあるが、感情表現が実に下手な気難しいひと。意見を問われても、いっさい答えを出さず解りませんと流す。余計なこと言わない、それこそがプロの仕事という考え方が物語りの最後まで続く。本当は自分の意見もあるようだが、それを表には決して出さない。もどかしいところが沢山あり、ちょっぴりイラっとさせる。そんなところがこの作品の一番の見所だとわたしは感じました。思ったことを言えないなんて、わたしには絶対に出来ないことなので、その分主人公の強さに感動し、そしていらだちも覚えたわたし。ラストの雨の中の別れシーンはちょっとうるっと来てしまいましたが、「完璧な人間ほど不器用」なものだと、教えられた気がします。
P.S.
アメリカの議員ルイスを演じたクリストファー・リーブ(スーパーマン俳優)の、演説シーンの内容に思わず聞き入ってしまいました。原作では脇役でしたが、この人物のモデルはどうやら若き日のJFKらしいと聞き、へぇ~っと不思議な気持ちになりました。このスピーチを確かめるのも、この映画の底力を感じるいい機会だと思います。ぜひ、ご覧あれ!
※映画終了時にロビーにいた老夫婦が「面白くなかったわね~っ!」て言ってました。面白い映画ではないが良い映画です。