

2018.10.15.
公開前から待ちわびていた作品“散り椿”を鑑賞。日本映画の王道ともいえる時代劇。一時期時代の流れに呑み込まれ、創られることがめっきりと減り衰退の一途を辿ったチャンバラ映画。制作費がかかるとか、集客が見込めないなどさまざまな理由はあったと想像される。ハリウッド映画の西部劇がまさに同様に衰退した時代があったが、これも娯楽作品への思考が時代とともに変わったという証。それでも時代はめぐり、時代劇も西部劇も映画界に戻ってきました。国は違えど本物の娯楽作品に自国のアイデンティティが描けるこのジャンルの価値を再認識したのでないでしょうか?単にノスタルジーを追っかけている訳ではなく、きちっと過去の作品をリスペクトした作品創りが感じられる良い作品が近年多い。また漫画を実写化したものなどは昔の作品ともちがい、ある意味New時代劇ともいえるものも生まれ嬉しい限りです。
さて、今回の作品は昔ながらの王道時代劇が描がき出され、オールドファンたちにはたまらない。物語のストーリーはある藩でおきた汚職をベースに展開していく定番の話しだが、なんと言っても時代描写や殺陣の見事さには息を呑む。これぞ日本映画と言ってもはばからない、日本のこころや美が丁寧に丁寧に描かれ、日本人として何か誇れる気持ちが湧いてきます。監督は“剱岳・点の記”で日本アカデミー賞最優秀監督並びに撮影賞を受賞した木村大作さん。業界に60年以上携わる日本映画とともに生きてきたひと。もともとは撮影監督出身で映像への拘りは追随をゆるさない。今回もその美意識が溢れんばかりの演出で、観客のこころに響き染み渡る。初めて撮影助手を務めたのが巨匠黒沢明監督の作品で、その後何十年の時を名匠・巨匠とともに映画と向き合って来た人。観れば感じますが、美への拘りは半端ないと実感させられる。沢山の経験を積み重ね、きっと拘り職人の監督が誕生したに違いない。主演の岡田准一も語っていた「美しい時代劇を撮りたい」という木村監督の熱い思いが見事に開花した作品となっています。久しぶりに正当派の時代劇を魅せられ、もっと沢山時代劇を創ってほしいと心底思うわたしである。
キャスティングもみなはまり役で、なんと言っても主人公・瓜生新兵衛を演じた岡田くんには拍手です。新兵衛が乗り移ったかのように、凜としていて武士道を貫く真の武士を演じていました。殺陣が得意とは知っていましたが、椿の樹木前で西島秀俊(榊原采女)との立ち回りはただただ美しく見とれてしまいました。岡田くんのアイデアでこのシーンが創られたことを某TVで知りました。印象に残るシーンとなったのは、間違いありません。自分勝手な妄想もあり、きっと泣けるのだろうと思っていましたがそこは空振り。でも後で考えると、監督がそんなめそめそした映画にはしたくなかったのだと思えてきました。これは男の中の男を描いた、人生の生きざまを魅せてくれたそんな作品です。