

2018.6.22
第71回カンヌ国際映画祭で、最高賞にあたるパルム・ドール賞を獲得した話題作“万引き家族”を鑑賞。是枝裕和監督の渾身の一作と評価も高く、公開から観客動員数をつぎつぎと塗り替え記録を更新しています。是枝監督と言えばデビュー依頼、生み出す作品は常に賞の対象となり、国内外でいま最も評価を受けている日本人監督である。ドキュメンタリーディレクターとしてTV界に入り、そこで培った経験が監督デビュー以来しっかりとベースにあり、社会テーマを常に意識し一般の人々の暮らしに寄り添うものづくりを考えているとのこと。確かにいままでの作品のほとんどが、それらを具現化したもののように感じられる。わたしが初めて触れた作品は“誰も知らない”である。これにはかなりの衝撃を受け、いまでも社会の不条理に流される子どもたちの姿が目に浮かびます。憤りを感じると同時に何も出来ない己の不甲斐なさに打ちのめされる。監督は常に、社会に対してメッセージを送ってくる。単に社会批判をするのではなく、周りを良く観て幸せについて皆でもっと考えてみませんか?と・・・。見終わると自らの力のなさを思い知らされることと、いかに自身が幸せかということに気がつかされる。上から目線の説教じみたアプローチはなく、自然体の表現は素直にこころに沁みてきます。いま一番輝いている監督さんではないでしょうか?
さて、“万引き家族”。ストレートな題名が物語るような、これもまた社会のひずみを拾い上げた一作となっています。冒頭からはじまる、子どもの万引きシーン。あっと言う間に画面に引きづり込まれ、悪いと解っているのにどこかでしょうがないじゃないと思ってしまう自分がいる。見終わった瞬間に「幸せとは?」と心の底から考えさせられます。
ちょっと話は飛びますが、むかしコンクール出品作品で権利をテーマにポスターを作成した事があります。コンセプトは「生まれて来る幸せ。生まれてこない幸せ」である。サブコピーに“好きで生まれてきたんじゃない。ほしくて生んだんじゃない。”と添えている。このときに感じたわたしなりの感情が、映画を観た後ふつふつと沸き上がり甦ってきました。何十年も前のことですが、時間は経っても変わらないものがいまもある事に気づかされました。ひとは生まれる場所や親を選べない。それでも生きて行かなくてはいけない現実があり、必死に幸せを掴もうとする。自分のことさえ生きるのが大変な時代に、どうひとと関わりそして生きて行くのが幸せなのか?と考えさせられ胸が苦しくなる。それぞれに安心する居場所があり、必要とするひとたちがいる。この作品で描かれた家族は、「本当の家族ではないが、本物の家族」である。やるせなくてたまらない気持になるが、血ではなくこころで結ばれていることの強さを教えてくれ、生きて行く上で本当に大切なものとは・・・を残してくれました。絶対お勧めの一本です。
P.S. 父親(仮)役のリリー・フランキーをはじめ、出演している俳優さんたちの演技は余りにもニュートラルで圧倒されました。監督さんの演出力が凄いのか、芝居には見えませんでした。監督の手法は独特で台本は用意されるが、その時に感じたことを俳優さんたちと一緒に紡ぎ出し、どんどんと変化し創られるそうである。子役には現場で口頭説明し、その場で子ども自身から出て来る言葉を拾い上げるらしい。どおりで素直な表現になり、ス~っとこころに入ってくるのだとちょっと納得しました。でも、勇気のいることでそう簡単ではないと思います。ドキュメンタリー出身監督のここが、まさにアイデンティティなのでしょう。凄い監督さんです。これから先、どんな作品をぼくらに観せてくれるのか期待はつきません。