

2018.6.12
久々に五感をねじ伏せられた作品に出会ってしまいました。第70回カンヌ国際映画祭にて、「脚本賞&男優賞」のW授賞をはたした話題作“ビューティフル・デイ”がそれ。観る前はベッソン監督“レオン”のイメージをもって挑んだのだが、それとは全く違う感覚の観たことのない新世界がそこには広がっていました。ジャンルも当てはまるものもなく、いろいろな要素が含まれていて、いままで感じたことのない衝撃の連続。感性にジワジワと染み込んで、まるで全身がウィルスに浸食されて行くような感覚を覚えた・・・。映像、音楽、音響効果、脚本、そして俳優。どれをとっても隙が見つからない。この感覚は何なんだろうと、息が詰まる想いが最期まで続く。
サスペンス、スリラー、バイオレンス、ヒューマン、それらのすべてが巧みに交差しラストへとわたしたちを導く。監督・脚本・制作のすべてを担当したのは、映画界でその手腕を高く評価されている女性監督:リン・ラムジー。わたしは初めて観る、監督作品である。PG12指定の作品は、かなり際どい描写もあるが、女性ならではの視点が随所にみられけっして不快ではない。バイオレンスの描写は、とかくリアルを追求するあまりグロに限りなく近くなる。しかしこの作品は、音や音楽との組み合わせを巧みに使い、創造力を掻立てる。五感のすべて、いや第六感までもが刺激され奮い立つ。わたしには、近年観た多くの作品の中でもきわめて特別のものになった。
“ビューティフル・デイ”というタイトルがイメージにリンクしないまま、ラストへと物語はひた走る。そして最期やっとその意味に辿り着き、主人公二人のさらに続く長い人生を創造して終わりを告げる。五感の中の特に視覚と聴覚が刺激され、スリリングでたまらない傑作の誕生である。台詞が極力押さえられ説明的なところが一切みつからない。それなのに主人公二人の感覚が、まるで手に取るように不思議な疑似体験の迷路へと誘い込む。1コマ1コマの切り取られ繋がれた画面は、スタイリッシュで美しい。それゆえスリリングな内容がよりリアルさを増し、そして音にリンクした瞬間、物語の世界へと呑み込まれていく。だが、それは恐怖ではなく開放されたこころの咆哮とでもいう刹那さに他ならない。凄い作品に出会ってしまいました。この監督さんの才能は本物。まだ4作目と聞くと、その可能性は創造すら追いつきません。
いずれ時間をつくり別作品で、監督さんの凄さにも触れ確認しようと思います。
もうひとり語らなくてはいけないひと、主人公の殺し屋ジョーを演じたホアキン・フェニックス。凄い存在感は観れば納得ですが、何か匂い立つというか言葉では表せない圧倒的な迫力と、内に秘めた繊細さにこころを奪われる事間違いなし。カストロ将軍のような風貌の大男だが体系はややぽっちゃり。どうみてもいままでの殺し屋(例えばジョン・ウィック)のような研ぎすまされた感じがない。武器も何ソレっ!て感じだし、その泥臭さがリアルさを増し凄いのである。この役のためウエイトをUPし、役づくりのため監督と何度もジョーの内面を話し合い創造を膨らませたそうである。さすが男優賞の名にふさわしい名演技です。観に行ってください、損はしません。デートにはちょっと不向きかとも思いますが、解る女性なら大丈夫。ジョーのこころに触れてみてください。
P.S. 誘拐された少女役のニーナを演じた、エカテリーナ・サムソノフはまさに天使。ハードな役だが、実に可憐で美しくカゲロウのような儚さを感じさせます。ラストの台詞「今日は、いい天気よ!」は、こころに残る台詞になりました。神秘性を漂わせ、きっとこれを期にブレイクすること間違いなし。“ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ”の時にデビューした、ジェニファー・コネリーの登場と同じ感覚を覚えました。