2018.5.18
何故いま、ヤクザ映画なのか?そんなことを思いながら“孤狼の血”に足を運んだ。
ヤクザ映画の代名詞となった東映の作品“仁義なき戦い”は、今なお語り継がれている実録のバイオレンス作品。1973年に第一作が発表され、瞬く間に人気を集め多くのシリーズ作品が公開され一時代を創った。その作品を手がけた深作欣二監督は、この“仁義なき戦い”シリーズで監督としての名声を不動にし今なお多くの崇拝者がいる。その中にはクエンティン・タランティーノやジョン・ウーという世界の巨匠も名を連ねその凄さを伺わせる。時代と共にヤクザ映画は影を潜め、同時に東映の一時代は終わりを告げた。当時実録のヤクザ抗争をリアルに描いた“仁義なき戦い”は、度肝をぬく迫力で良くも悪くも大きな影響を社会に与えていたのは間違いない。時代がどんどんと平和になり、映画と同じように「仁義」という名も消え、ひとのこころからも遠い世界の話になって行きました。
実録のヤクザ抗争をもとに創られた今回の作品“孤狼の血”は、原作者が柚月裕子氏でメガホンを撮ったのが白石和彌監督。原作が女性だと言うところにまず驚かされる。内容もさることながら、かなりハードな描写の連続でこの男社会を描く感性がどこから来るのかとても興味深い。白石監督は“凶悪”で日本アカデミー賞を授賞し、昨年も“彼女がその名を知らない鳥たち”“サニー/32”と立て続けに話題作を提供しています。どの作品もかなり人間の奥底にある理屈では計り知れない感情を引き出し、不愉快になるほどハードな世界を描きだす気鋭の監督さん。そんな二人が造り出す現代版のヤクザ映画に、70年代を生きてきたわたしは興味全快。今回も内容はいっさい触れません。自身の目で観てください。はたしてその感想は・・・。
近年バイオレンス作品といえば、北野監督が創ってきた“アウトレイジ”が真っ先に頭に浮かぶ。どうしてもこの作品と、今回の“孤狼の血”は比較されるに違いない。これは覚悟の上で製作されたに違いないと、見終わって改めて感じました。個人的には似て非ひなりの作品と受け止めたわたし。ヤクザの世界がベースで創られたところは共通ですが、まず男性と女性の視点の違いがあることと、もうひとつは実録ものとしての映像表現に対するエンターテイメントを追った表現の違いがはっきり現れた作品ではないでしょうか?どちらが良い悪いは、きっとファンの気持次第。両方とも好きというひとは、きっと映画が大好きなひとたち。今作もRー15指定で暴力描写は目を覆いたくなるシーンの連続。いくら松坂桃李くんがでているからと言っても、デートで観るのはシンドイと思います。観るなら男女別々で・・・。
いろんなひとの名が出ましたが、間違いなくみなさん“仁義なき戦い”という作品をリスペクトしています。時代は回るとよく言いますが、緩い今の世の中に刺激が欲しいひと、そして刺激を与えたいひと、そんなひとたちがきっといるのかも知れません。そんなメッセージを感じたわたし。みなさんはどんな感想を持つでしょうか?
P.S. 役所広司さんは何をやっても凄いということが、はっきり解りました。重たく暗くハードな話に選ばれた俳優さんたちは個性派揃い。しっかりと役に徹しその世界をリアルに表現してくれました。中でも桃李くんの頑張りは凄かったです。ここのところ意欲的にイメージを打ち破るような役に挑戦している感じが、たまらなく良いです。俳優としての志しをしっかりと持って、仕事に望んでいるそんな印象を受けました。これからも頑張ってほしい俳優さんのひとりです。