2018.5.04
昨年見逃した作品“ゲットアウト”を観に、ギンレイへ。二本立てのもう一本は“IT”で、すでに鑑賞済み・・・。二本を見る元気はすでになく、観たかった作品に集中です。あまり前もって情報収集をしないわたしだが、このホラー作品は別。何故かと言えば、まず今年度アカデミー賞脚本賞を獲得したこと。ホラー作品が獲るのはめずらしいのではないだろうか?それともう一つは、監督・脚本のジョーダン・ピールが第一回監督作品の上、本業がコメディアンだということ。さしずめ日本の北野と重なるのである。テーマは差別問題を軸にしたホラー映画となれば、すべてが興味深い。予告編でもなにか目には見えない異様な雰囲気が漂い、いても立ってもいられないほどの期待感がわたしを突き動かしたのは事実。平和になったかのような社会だが、いまだ根強い差別の現状。昨年観た”デトロイト“は実際におきた事件を取り上げリアルな表現で差別問題をあらためて問題提議したばかり・・・。今作はホラー仕立てという表現を使い、いったいどんな形で人種差別を訴えてくれるのかと身構えての鑑賞になった。
オープニング冒頭から、何やらあまり気持ちよくない音楽が流れこれからはじまるであろう物語への不安感が高まる。怖いもの見たさを刺激する絶妙な演出に、ワクワクドキドキ。主人公は黒人の若手新進写真家クリス(ダニエル・カルーヤ)。端正な顔立ちが印象的で目力が半端ありません。白人の恋人ローズ(アリソン・ウィリアムス)と、彼女の家を訪れ交際を認めてもらいに・・・という滑り出し。ローズの楽観的な想いとは裏腹に、クリスは言葉では言い表すことのできない不安をかかえての旅立ち。出てくる人々のなんとも言のえない雰囲気が、不気味である。言葉では親愛の情をあらわしてはいるのだが、どこか嘘くさく無表情。完全に孤立状態のアウェイで、次々に起こる不可解な出来事。見事な脚本で、知らず知らずに画面の中に引き釣り込まれる。名作“シャイニング”や“カッコウの巣の上で”のような不安をじょじょにあおっていく演出は本物。音響効果の使い方も絶妙で、何度もドキッとさせられる。まさに一級品のホラー作品であることは間違いありません。ただ怖がらせるだけでなく、しっかりとアメリカが抱える根強い人権問題をベースにじわっと考えさせられる。物語の良さもさることながら、出てくる俳優さんたちの甲乙つけがたい不気味な演技力。終わってみれば人種問題の枠からはみ出て、もっと大きな人権問題へと変わっていく。もし自分がこの状況に追い込まれたら、どこまで自分を保つことができるだろうか?
ラストは言えませんが、一級品のホラー映画をぜひ自分の目で確かめてください。
P.S. 実は調べて解ったことが・・・。ラストの別バージョンが存在すること。実はわたしはラストが少々出来すぎな感じを抱いていました。そうした中、別の切り口でのラストが存在したことを知り個人的には多いに納得。近々DVDが発売になり、二つのラストが用意されているとのこと。観てはいませんが、もう一つのラストの方が私的には納得かも・・・。
それでも、監督が最近起きている差別事件を重く受け止め出した結論と聞き、何も口を挟む事が出来なくなりました。当事者が一番悩み打ち出した結末に、だれが異論を述べられるでしょうか?そんなことをこころの片隅におき、観るとまた違った印象を受け考えさせられる作品です。
※作品半ば「GET・OUT」という言葉を浴びせられる主人公ですが、思うにこれは嫌って発した言葉でなく“ここにいちゃ駄目!”と言っているように聞こえます。