2018.4.09
今年度アカデミー賞にノミネートされた、話題作“ペンタゴン・ペーパーズ”を鑑賞。スティーブン・スピルバーグ監督の渾身の一作は、1971年に起きたアメリカ最大のスクープ記事掲載に端を発した「報道の自由と権利」を問う、国とジャーナリズムの闘いを描いたヒューマン・ドラマである。
2年前に、やはりアカデミー賞作品賞になった“スポット・ライト”が記憶に甦る。こちらも地方紙「ボストン・グローブ」がスクープしたカトリック協会が隠蔽してきた、性的虐待をテーマにした実録ドラマでした。報道の是非を問う作品はよくテーマになり創られるが、娯楽作品とはほど遠い作品ばかり。それでも歴史を大きく動かした事件の1ページを、映画を通し描いてくれることには大きな意義が・・・。
面白いとは決して言えない映画にも、知っておかなければ行けない事実を描く役割がある。それを、しっかりと創り上げたのが今作“ペンタゴン・ペーパーズ”。作品は重厚感に溢れ熱い。
作品では主人公のワシントン・ポスト社主キャサリン(ケイ)・グラハムや、編集主幹ベン・ブラッドリー、そしてケイの良き理解者取締役会長フリッツ・ビーブの関係があまり深く掘り下げてはいない。事件そのものにスポットをあて、それぞれに立場の違う登場人物たちのジャーナリズムの是非と立場の狭間で葛藤する人間模様をきめ細やかに描いてみせている・・・。だが個々の人間たちが置かれている立場や、その関係性がやや見えにくい。そこがみえるともっと深い感動が生まれたに違いない。実はこの映画を観る前、TVで“ペンタゴン・ペーパー”の公開に合わせたかのようなドキュメントをやっていたのをたまたま観たわたし。思うに、その知識がおおいに役立ち複雑な人間関係にもなんとかついて行く事ができました。実にラッキーなわたし。観る前に多少也とも予備知識を入れ観た方が、この作品は深く味わう事ができると思います。
キャストも豪華でケイ役をメリル・ストリープ、ベン役をトム・ハンクスにすえ、監督がスピルバーグとなればこの時点で期待は高まるばかり。先はども言ったが面白い作品とは言えないが、まさに王道の風格漂う重さである。主演二人のなりきった演技は、流石と言うしかことばが見つからない。終盤の記事を載せるか否かの決断を迫られるシーンは、胸が熱くまた重苦しい緊張感が伝わってくる。報道とは大変な仕事である。もちろんどんな仕事にも責任があり、その上にプライドが成り立つ。ただ今作は国を相手取っての闘いを描いているのでスケールが違う。覚悟を持って仕事に望んでいるか?をまさにそれを問うメッセージがのしかかる大きなテーマである。1971年当時高校生だったわたしは、ベトナム戦争を背景に日本でも起きていた反戦運動真っただ中で青春を送っていたひとり。この作品に出会うまで、ベトナム戦争終結までの道筋をまったく知らず生きてきた。この作品との出会いで、あらためて権力に呑み込まれないこころの強さがどれだけ大切かということと、そして歴史が動くきっかけになる事実があったと言うことを知りました。
今作ほど大きくはない事例ですが、いま日本でも隠蔽工作が問題になり毎日TVを賑わしています。いったい真実はどこにあるのか?国民はため息まじりで画面を観ています。良い意味での覚悟をもった人が現れる事を切に願うばかりです。
P.S. メリル・ストリープの凄さが本当に伝わる演技ですが、取りまく周りの役者さんたちのリアリティーに溢れた緊張感ある芝居も、見逃すことができません。スタッフ全員の念いが詰まった、作品に拍手を贈ります。