

2018.3.09
公開から51年にもなる懐かしい名作、“招かれざる客”を鑑賞。この作品を観たのはリアルタイムではなく、数年がたったころ名画座での鑑賞だったと記憶している。いまでもテーマとされる人種差別問題に深く切り込んだ作品に、当時胸を打たれたことが思い出されます。時が経ち先日64歳になったばかりの今観ると、また違った意味で色々感じるところがありました。単に人種を超えた愛の物語などとは、言い表せない奥の深い問題をきめ細かに描いていることに気がつかされます。当時の時代を考えれば、こんなに奇麗ごとではすまされない話ではないでしょうか?
それにしても、出ている俳優さんたちの演技力には舌を巻いてしまいます。たった一日の出来事を描いているのに、なんと濃い時間を感じさせてくれるのだろう。交わす言葉の誠実に満ちた感情移入は、一言一言に重みがありこころにズシンと響きます。時代も大きく変わり今でこそ自由になった恋愛だが、もしこの状況が自分に降り掛かったらどんな答えを導き出すなかと考えさせられてしまいます。そのくらいの圧倒的な俳優さんたちの演技力が、ただただ凄いのひとこと。この作品は多くのアカデミー賞にノミネートされて話題になった訳だが、主演女優賞と脚本賞を授賞した。母親役を演じたキャサリン・ヘップバーンが見事な演技で、2度目の女優賞に輝いた文句のつけようがない作品である。複雑な母親の感情をきめ細やかな演技で演じ、思わず涙を誘う。主人公の黒人青年医師を演じたシドニー・ポワチエは、この作品の4年前に“野のユリ”で黒人俳優ではじめてのアカデミー主演男優賞を獲得した俳優で脂ののった見事な演技でした。実父との口論で「黒人である前に、人間でありたい」と訴えるシーンはまぎれもなくこの作品のテーマそのものである。脇を固める俳優さんたちも、みな人間味に溢れ突然降って湧いた出来事を右往左往しながらウェットに富んだ会話でこころを和ませてくれます。こんなひとばかりなら、世界平和も夢ではないと思わせてくれます。わたしが一番感動したのは、何と言っても父親を演じたスペンサー・トレーシーの演技。凄過ぎて言葉が見つかりません。残念ながらアカデミー賞は逃しましたが、紛れもない名優の演技で忘れることのできない作品となっています。残念ながらこの作品が彼の遺作となってしまい、観れば観るほど残念に思えてしまうわたしです。キャサリン同様彼もまた映画史に残る名優として、燦然と輝くスターとなりアカデミー賞ノミネートはジャック・ニコルソンに抜かれるまで9回を誇る俳優さんでした。
映画を見終わって、現在描かれている人種差別をテーマにしたものの原点はここにあるような気がします。至ってシンプルな内容の作品ですが、まさしく名作とはこういう作品を言うのだろうと改めて確信しました。あなたも是非、観てはいかがですか?
P.S. キャサリン・ヘップバーンとスペンサー・トレーシーの関係は周知の事実だった当時、籍こそ入れていなかった二人だが最期を看取ったのはやはりヘップバーンだったそうです。映画の中と同じ、愛に満ち溢れたパートナーだったに違いありません。彼の死後、彼を思い出し辛いという理由でヘップバーンはこの完成版を観ていないと記述に残っています。いまは天国で幸せに、下界を見下ろしていることでしょう。合掌。