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よもやまシネマ379 “スリー・ビルボード ”
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2018.2.13

今年度のアカデミー賞候補筆頭の作品“スリー・ビルボード ”を鑑賞。間違いなしの傑作です。アカデミー賞候補に上がっている作品は、まだ公開前の作品が多く鑑賞に至っていない。なので賞を獲るのかは定かではありません。ですが観た感想を素直に言えば、久しぶりに胸にくる作品でした。何よりも出演者の演技が素晴らしく、だれひとり掛けても成立しないであろう表現力の高さを感じざるをえません。
物語はアメリカ中西部の小さな町エビング(架空)の日常を舞台にしている。きっと普通なら何事も無く穏やかで、静かな生活が平々凡々と繰り返されるそんな場所に違いない。ただそれは閉鎖的な環境の中、波風を恐れた人々が息をひそめ我慢している証でもある。アメリカのミズーリ州が背景のこの映画ですが、人権問題や差別がいまだに多く絶対に行っては行けない、生きたくない土地だと聞きます。先日観た“デトロイト”同様に人種差別は露骨に横行し、その中みな息を殺し生きているようだ。
作品は冒頭のシーンから朽ち果てたビルボードが映し出され、うっすらと霧の中に浮かぶ。BGMの曲(アイルランド民謡)がやさしく静かに流れ、何やら不穏な雰囲気を醸し出し一気に画面に吸込まれる見事の演出である。3枚のビルボードに込められたメッセージが町に波紋を拡げ物語ははじまる。人間とは何と愚かな生きものなのかと、つくづく考えさせられる。悪い人間もいないかわり、良いと言える人間もあまり見当たらない。みな生きることに精一杯で、もがき苦しみながら虚勢をはり何とか精神のバランスを保とうとしています。これはまさに人間の本来の姿なのかも知れません。誰が悪い訳でもないのに、つい感情をむき出しにしてしまう人間のこころのあさはかさが物語ひっぱり、ラストへと繋がれる。結末は描かれていないが、考えさせられる余韻を残し幕は閉じます。ダメな人間ばかりなのに、なぜか愛しいのは何故だろう・・・。きっと私たちも同じようにひとを傷つけ、そして悩みもがき苦しみながら生きているからに違いない。人間の内面にこれほど深く切り込んだ作品は久しぶりである。小さな田舎町を舞台にしたところが、逆に印象を深め人の関わりの大切さが見事に謳われている。監督の研ぎすまされた見事な演出力に、圧倒されます。汚い言葉が飛び交い、むき出しの感情のぶつかりあいに思わず苦笑してしまうことすらある。ここまで本音をぶつけあうことなど、私たちの生活ではあり得ないこと。それだけに羨ましさ半分、怖さ半分の極限状態を体験させられる。
監督はマーティン・マクドナーという人物で、監督・脚本・製作の全てを手がけた今作。もとは舞台の脚本からのスタートと聞き、今作は珍しいダークな作品と言われているらしい。本人は哀しい作品と呼んでいるらしい・・・。確かに見終わると儚い哀しみが込み上げてくるのは間違いない。はじめて監督の作品に触れましたが、わたしの中の扉はしっかりと開きつぎをお強請りしています。
冒頭俳優人が素晴らしいと言いました。観れば納得の演技力で、どの役の俳優さんも存在感が半端ありません。主人公の母親ミルドレッドを演じたフランシス・マクドーマンドの鬼気迫る迫力に終始圧倒されますが、それゆえ時に見せる寂しさ哀しさはグサッと胸に突き刺さります。ビルボードの前でひとり花を植えている、彼女の前に現れた子鹿に話しかけるシーンはたまりません。これまでも高い評価を受けているひとだが、わたしははじめて・・・。こんなに凄い俳優さんがいるのだと、勉強不足に猛反省。正直美人とは言いがたいがとてもチャーミングな女性ではないでしょうか?ちょっと怖いですが・・・。敵対する警察所長のウィロビーを演じたウディ・ハレルソン、そしてその部下の危ない警官ディクソンを演じたサム・ロックウェル、この二人の俳優さんも甲乙つけがたい記憶に焼き付く演技でした。3人はアカデミー賞の女優賞と助演男優賞にノミネートされています。観れば納得ですので、ぜひ3人の演技を堪能してみてはいかがでしょうか?
P.S. 劇中で使われたミルドレッドへの言葉(バカ夫の恋人が発した)、「怒りは怒りを来す」はこの作品のコンセプトと言っていい言葉。強くこころに残りました。
by eddy-web | 2018-02-14 00:00 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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