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よもやまシネマ350 “午前十時の映画祭・泥の河”

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日本映画の中で、最も好きな作品と言ってもいい”泥の河“を観た。独自の作家性を持つ小栗康平監督のデビュー作となる名作である。はじめて作品を観たときの、こころのヒダに染み込む感動はいまも変わらない。沢山の映画(日本)を観てきたが、一番好きな作品をあげるとなれば絶対にこの作品。良い作品とかではなく、好きな作品というところがわたしの思いである。そんな作品はそう多くは無い。内容はもちろん、映像表現や音楽、役者さんたちの演技、そして五感にうったいかけてくるこころの動き。すべての場面がこころに染みる作品です。1981年(昭和56年)公開時、モノクロ映像の中に写し出された懐かしい感覚がいまも忘れられない。物語の設定は昭和31年の大阪が舞台。運河の近くで食堂を営む両親と、細やかだが幸せに暮らす家族のひとり息子・信雄のひと夏の体験を叙情豊かに表現している。小栗監督のデビュー作とは思えない細やかな表現力は、ナイーブな感覚を写し出し観客の胸に迫る感動を与えてくれる。時代背景もあるかと思うが、極力説明的表現を押さえ、観る側に感情を読み取らせる映像表現に重点を置いている。言葉では表わせないひとの想いを、きめ細やかに紡いでみせる。子どもから大人へと一歩づつ変わって行く様の、辛くて寂しい一瞬が胸を締め付け儚い。見終わった後に、これほど余韻が残る作品はそうそうない。昭和31年といえば、わたしは3歳。東京の下町で生まれた自分も、似たような環境で育った記憶がある。そんなところもきっとこの作品に強く引かれる要因かも知れない。主人公の子どもたち信雄・喜一・銀子(喜一の姉)が、素晴らしいです。オーディションで300人の中から選ばれた子役たち。感性豊かな表情が画面から溢れ、涙を誘います。撮影時監督自ら、アパートで半月あまり3人と共に生活をしたそうです。卵かけごはんを食べ、銭湯に通い、布団を並べて寝る。当時の貧しい暮らしを共に体感するための環境づくりをしたそうです。映画を観れば、拘りのリアリティは間違いなく伝わってきます。今亡き田村高廣さん演じる父(信雄)や、母役の藤田弓子さん、貧しくとも健気に生きる姿は子どもたちと重なり、人と人の繋がりの大切さが伝わる印象深い演技でした。あとはなんと言っても喜一の母(笙子)を演じた加賀まりこさんの、ドキッとする艶めかしい美しさに尽きます。物語の中枢を担う重要な役を演じ、生きること、生きて行くことの哀しい性を見事に魅せてくれました。この作品は間違いなく彼女の代表作になりました。勝気なイメージの強い女優さんですが、とても綺麗で男っぽいひと。年を重ねても綺麗で大好きな女優さんです。
ひと夏の出会いと別れに凝縮された、子どもたちの小さな胸の中にある優しさ健気さに大切なものを思い出させてくれる秀作です。絶対に観てほしい作品のひとつです。
P.S. 小栗監督はまだ6本しか作品を撮っておりません。でもそのすべてが映画史に残るような作品ばかり・・・。”禁じられた遊び”のラストシーン「ミッシェル!ミッシェル!!」と同じくらい、"泥の河”「きっちゃ~ん!きっちゃ~ん!!」の叫ぶ声が耳から離れません。いまもそうですが、ラストシーンのこのセリフを聞いただけで涙が溢れてしまうわたしです。
♥OMAKE/この作品が好き過ぎて、本の装丁を創ってしまいました。本編に出て来る魚影(黒)に、喜一の母笙子を重ねてみました。いかがでしょうか?

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by eddy-web | 2017-09-28 00:00 | よもやまCINEMA(映画の話) | Comments(0)
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