

2017.9.11
いま、最も輝きをはなっている是枝裕和監督の最新作“三度目の殺人”を鑑賞。重たい物語だったが、いろいろと考えさせられる印象深い作品となっていました。観賞後、これほど内容から抜け出る事の出来ない作品は久しぶり。まるでのどに魚の小骨が刺さった感じで、気になって気になってしょうがない。何が正しくて、何が間違っているのかさえ解らなくなる。劇場を出た後、頭の中をぐるぐると回る登場人物たちの顔。真実はひとつという事だけは解るのだが、それすら正しいことなのか???。社会的テーマをいつも投げかける是枝監督の強いメッセージが、ボディにじわじわと効いてきて苦しい。こんな作品はしばらく出会っていない気がする。昨年観た“怒り”以来の後味を味わった。人間の中にある、理解不可能な念いや怒りそして行動。そんなものが凝縮し描かれた“三度目の殺人”は、見る側の答えを見つけさせようとしているのかも知れません。司法や裁判のあり方など、普段はあまり触れる事のないことにも言及した作品には考えさせられた。裁判員制度が平成21年度から始まった日本ですが、このあたりも含め考えさせられることが多い。
作品の中で、「忖度」とか「理不尽」とか「器」とか言葉の解釈が人によって異なるような表現が沢山出て来る。ここもまた、是枝監督の計算と演出が臭う表現で頭の中を駆け巡る。あっあっ~~!!っと思わず叫びたくなる自分がいる。どうしようもなく押さえきれない感情が、行き場を失いもがいている。とても疲れた・・・。でも、大切な事を教えてもらった気がする。
出演者の演技が、みなさん半端無く共鳴し合っていて重厚感がひしひしと伝わる。福山雅治さんは是枝監督と仕事をするようになり、ひとまわりもふたまわりも大きくなったような気がします。もともと才能のある方とは思いますが・・・。相手役の役所広司さんの凄みというか存在感はもう言葉では表す事が出来ないほどです。面会室でのガラス越しの会話シーンは、どの描写も息が詰まる攻防の連続。ガラスに映る顔が相手の顔(実像)と重なる映像は、二人のこころが投影されている見事なシーンでした。ふたりの目力は怖いくらいで、言葉以上の力を表していました。ふたりは完全に一体化し、共鳴した演技を披露しています。脇をかためている俳優さんたちがまた見事で、これもまたふたりに触発されたのではないでしょうか?広瀬すずさんは最近、映画に引っ張りだこですが、こう言う作品に沢山でてくれるといいなと個人的には思っています。可愛いさを売りにした作品が多く、何かもったいないそんな気がしています。いまが春なのは解りますが。力のある表現力を持っているので、チャラチャラした感じの作品はどうも・・・。全部観ている訳ではありませんので・・・おじさんの戯言と聞き流してください。この作品でも、とてもいい演技されていました。
「嘘の裏側にある真実と、真実の裏側にある嘘」あなたは、どちらを選びますか?わたしは・・・?
P.S. 主演のふたりも凄いのですが、それを納める映像の美しさが実に見事。光と影のコントラストを巧みに使い、重厚な臨場感を創り上げています。“一昨日前に観た“ダンケルク”も奇麗でしたが、この作品も見応えがあります。そして音楽がまた、何とも言えない味わいを奏でさらに印象を高めていました。音楽は“最強のふたり”で音楽を担当した、ルドヴィコ・エイナウディで、これまた驚きの起用でした。